コラム
火星ひとりぼっちと昆虫食
映画「オデッセイ」(日本公開2016年)は、火星に取り残された男のサバイバルとその救出劇を描いた作品です。絶望的な状況の中で、決してあきらめずできることを淡々とこなす主人公は、ただ者ではありません。次の火星探査は4年先、それまで生き残るために基地内にジャガイモを栽培します。人工的に水を作り、土を運び込み、宇宙飛行士の糞を有機肥料にして畑を作りました。この火星産ジャガイモは彼の命を救うのですが、畑は事故で使えなくなってしまいます。普通は、これで心が折れてしまうのですが、サバイバルは続きます。地球との交信が可能となり、彼の救出劇が始まるのです。
宇宙食としての昆虫
「オデッセイ」の主人公は植物学者でしたので、ジャガイモの栽培は自然な流れに見えました。私は昆虫学が専門なので、昆虫を宇宙食にするという話を思い出しました。日本ではJAXAが宇宙でカイコを飼育して、さなぎを食用にすることを提案しています。現在、宇宙食を独自に開発しているのは、アメリカ、ロシア、日本だけですから、日本の提案はそれなりに影響力があるかもしれません。
昆虫を繁殖させ、大量にタンパク質を生産するためには、大型で発育の遅い昆虫と小型で発育の速い昆虫のどちらが有利でしょうか?三橋(2010)は、カイコとイエバエを用いて比較した結果、小さくて発育の速いイエバエの方が、一定期間の生産物量ははるかに多いとしています。
資源再利用循環システム
イエバエは家畜糞で発育できるので、人間の糞でも可能なはずです。火星までの長い航海の間、宇宙船での食料生産は大きな課題です。イエバエの卵を宇宙飛行士の糞で育て、幼虫を回収し加工して動物性タンパク質に、幼虫が食べた後の糞は有機肥料として、野菜の生産に利用します。これで、捨てるものがない循環するシステムができます。狭い空間で繁殖可能な昆虫は、宇宙船内での生産にピッタリです。私は実際にロシア産のイエバエの卵を豚の糞で育て、幼虫をタンパク質として、糞を有機肥料として回収した経験があります。小規模であれば実用化できる技術だと思います。
イエバエの料理法
イエバエが処理した糞は、臭くないサラサラなものができるので、これを肥料にして野菜を育てることには全く抵抗がないと思います。しかし、自らの糞で育ったイエバエを食べることができるでしょうか?幼虫を乾燥させ粉砕しクッキーに入れるなどの調理法の工夫がとても重要だと思います。食事は大きな楽しみであり、イエバエをおいしく食べられなければ、宇宙食として導入できないでしょう。
参考文献
- 三橋 淳(2010)昆虫食古今東西 工業調査会,290頁,東京.
更新日:2019年02月19日