[ ここから本文 ]

食の広場

メニューに戻る!

第8話 『文化祭』

私たちの通っている夢が丘中学校にも、もうすぐ文化祭の季節がやってきます。

優子「..で、結局、うちの班に取材が押し付けられたわけ?」

陽一「早くいえばそういうこと。」

優子「遅く言っても一緒でしょ。班長のあんたがしっかりしないからそういうことになるんでしょう。」

陽一「それより僕たちがあそこによく遊びに行ってること、みんな知ってるからさ。僕達に行ってきて、というのもしかたないんじゃないかな。」


優子「おじゃまします。取材をお願いしてました、夢が丘中学の者ですが。」

先生「やあ、どうもいらっしゃい。お話はそちらの先生から聞いてますが、学校で何か発表会があるんだって?」

ともよ「こんどの文化祭で各クラス一つずつ、発表をすることになったんです。で、うちのクラスでは今、流行の「体にいい食べ物」について何か出そうということになりまして、こちらの先生方にいろいろと教えてもらいたいと思いまして。」

先生「そういうのって、今、はやってるからねえ。何から話すかな。そうだな、君たちはヨーグルトは好きかい。」

ともよ「はい、わたくしは毎日食べておりますわ。」

先生「例えば、ヨーグルトって体にいい、ってよく言われているよね。でもどうしてこんなことが言われるようになったか、君たちは知っているかい?」

陽一「僕は知らないです。」

先生「その昔、あるところに非常に長生きな人がたくさん住んでいる村があって、そこの人が発酵乳をたくさん食べていた、だからヨーグルトを食べると長生きする、と言った人がいたんだ。どうもその調査はあまり信用できないってことが後でわかったんだけど、多くの人が『ヨーグルトがきっと何か体にいい働きをもっているに違いない』と思って、いろいろと調べてみたんだ。そうすると、たしかにいろいろな働きをもっていることや、さらにその上、それがどういう仕組みで体に作用するのかについても、だんだん分かってきたんだよ。」

ともよ「それって、たとえばお腹の中をきれいにする、とかいうものですか。」

先生「ほかにもばい菌なんかに対して抵抗力が強くなるとか、いろいろなことが言われているね。これはヨーグルトだけじゃなくて、他の健康食品に対してもいえることだけど、それが『体にいい』っていうためには『それがどういう仕組みで体に効いているのか』ということを調べることが大切なんだ。ただ最近は逆に、いろいろとそういうものが分かってきたこともあって、何か効き目がありそうな成分が入っているだけで『これを食べると体にいい』っていう人もいるんだ。でもそれはあまりいいことじゃないと思うよ。」

陽一「どうしてですか」

先生「僕たちは人間の体の中で起きていることを全て知っているわけではないし、普通、実験というのはその中の仕組みの一部だけを取り出してきて、いろいろと調べているものなんだ。だからたとえばの話、それまで知られていた仕組みから『あるものに含まれる成分をたくさん取るとガンが起きにくくなる』ということを予想していても、その後の研究で、それは体の中では別の成分に変わってしまって効き目が無くなっているとか、ひどい時には逆にそれがガンの元になっている、ということがわかることもあり得るんだよ。」

優子「それっていやですね。」

先生「それに、あるものが体にいいからって言って一つのものばかりたくさん食べていたら、栄養のバランスも片寄るし、もしかするとそれに入っている体に悪いものまでたくさん取ることになるかもしれないよね。例えば魚の中には体にいい油がたくさん入っているんだけど、その一方で日本人が取っているダイオキシンの半分以上は魚介類からきていることも分かっているんだ。食べ物は普通の量を食べている分には問題がないことは分かっているから、バランスよくほどほどの量を食べることが健康には一番、いいと思いますね。」

勇太「なんかすごい話を聞けるかと思ってたけど、思ったより常識的ですね。」

優子「(..全く、なんてこと言うのよ)」

先生「じゃあ、今から君たちがびっくりするような研究をしている先生たちを紹介するから、よく聞いてきて、学園祭で宣伝してよ。」

ともよ「はい、よろしくお願いします。」

-- 博士からのコメント--

 最近、食生活が健康に与える影響について、興味をもつ人が増えています。食品のもつ健康機能の研究は、多くの場合、疫学調査から始まります。これは、様々な人々の食習慣と健康の関係を調べ、ある食品(に含まれる成分)が健康増進に影響を与えるらしい、ということを統計的に検証する作業です。つづいて、その食品から実際に効き目がありそうな物質を取り出して、それが体のどういうメカニズムに作用するかを調べます。このときには普通、動物や人を使わずに、生体外でその働きを検討します(in vitro試験)。ここでその物質が本当に効きそうだという結果が得られれば、今度は動物や人間に与えてその働きを調べることになります(in vivo試験)。上にも書いたように、in vitro試験の結果では効果がありそうに見えても、in vivo試験では効果がないことや、あるいは別の作用が出ることもあるので、十分な注意が必要です。
 日本では、これまで、「病気に効く、あるいは健康を増進する」といった特別な生理効果をもつものは「薬」であるとされており、食品の薬効を強調することは薬事法によって禁止されていました。しかし、「体調を整える」といった特別な働きを持つ成分を加えたり、「アレルギーの原因となる成分」などを除去するなどした食品で、その効果が科学的に評価されたものに対しては、厚生省は「特定保健用食品」の表示を許可しています。これには血圧を下げる成分を添加した発酵乳製品などがあります。

第7話 『人のつくりしもの』に戻る!
第9話 『野菜は健康にいちばん』に進む!
メニューに戻る!

このページの先頭へ

[ ここまで本文 ]