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食の広場

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第13話 『噛む力』


陽一「堅焼せんべいか。どうしたの、こんなもの。」

勇太「いやー、一昨日からうちのおじいさんが遊びにきてて、そのときに持ってきてくれたんだ。」

陽一「じゃあ、一枚いただき...なんだこれ、すげえ堅い。おじいさんって、よくこんな堅いもの食べられるねえ。」

勇太「うん、昨日も俺に自慢してたよ。おまえ達とは鍛え方が違うってね...」


勇太「で、これがそのせんべいなんです。」

先生「うーん..たしかにこれは堅いね。それにしてもこんなものを平気で食べられるっていうのは、君のおじいさんも大したものね。」

勇太「そうなんですよ。とにかく元気で、今日も朝から空手道場に出かけて行ったんですよ。」

先生「それは良いことね。人間は本来、60-70歳ぐらいまでは自分の歯で食べ物を食べるだけの能力があるの。でも最近の食べ物は昔の食べ物と比べると柔らかくなってきているから、私達も食べ物を噛む力が弱くなってきているし、歯の寿命も50歳ぐらいに短くなってきたと言われているの。」

陽一「おじいさんが鍛え方が違うって言っていたのは、昔は堅いものを良く噛んで食べていたっていうことなんですね。」

先生「そうね。もっと昔の人は、米一つとってみても白米よりも堅い玄米を食べていたし、つけものやゴボウのような繊維質のものをたくさん食べていたからね。ものを噛むためには顎の筋肉と歯が強くなくちゃいけないんだけど、そのためには、永久歯が生える小学校の始めぐらいから10代の頃に、しっかりとものを噛んでおくことが必要なのよ。」

勇太「じゃあ、もし僕たちぐらいの時に柔らかいものばかり食べていたらヤバいということですか。」

先生「少なくとも普通の白米は十分に柔らかいし、メン類なんかもあまり噛む必要はないよね。もしこういう食生活を続けていたら、君たちがおじいさんになった頃には歯も抜けてしまって、堅いものは食べられなくなってしまうかもよ。」

陽一「でもそうなったら、そうめんとかプリンとかバナナみたいに、柔らかいものばかり食べていたらいいんじゃないのかな。」

先生「食べ物のおいしさって、味や香りの他に口の中で感じる感覚っていうのも無視できないのよ。だから『つるつる』『プルン』とした食感のものが大好きで、それだけで満足できるというならばもちろんいいんだけど、例えばステーキの肉みたいに、噛むことでおいしさが増すものをうまく味わえないっていうのも、ちょっとイヤじゃないかな。それに栄養のバランスも片寄るし。」

陽一「うーん、そういわれてみれば..」

先生「あと、食べ物を良く噛んで食べていれば、胃や腸が消化するときにあまり苦労をしなくてすむし、ゆっくり食べると時間がかかるから、あまりたくさんのものを食べなくてもおなかが一杯になった気分になって、食べすぎを防ぐことにもなるのよ。」

陽一「わかりました。ダイエットになるなら僕もよく噛んで食べてみます。」

勇太「でもおまえさ、早弁してちゃあダイエットにはならないと思うぞ。」

--博士からのコメント--

 食べ物の味わいには、甘みや辛さなどの「化学的な」味や香りの他に、食感や喉越しのような「テクスチュア」も大きな影響を与えます。しかし、堅さや粘りなどの物性がどのように人間の感覚に影響を与えているか、科学的に調べる方法が開発されたのはそれほど昔のことではありません。噛む時に歯にかかる力や筋肉が動く力などを実際に調べてみると、個人差が非常に大きく、また年齢や性別によっても異なることが分かってきました。しかし一つ言えることは、最近の食生活の変化にともない、食べ物を噛む回数が減少し、そのために噛む能力が低下してきていることです。お年寄りの中には、咀嚼能力が低下によってものを食べることがおっくうになり、そのために体力が落ちるという例も見られますが、このような能力は発達期の内に鍛えておくことが必要です。

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