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生体内における活性酸素は生体脂質を酸化することによって動脈硬化な どの疾病を引き起こすと考えられている。その脂質過酸化反応を考えると き、例えば食用油と細胞膜とでは反応速度が異なるため、その生体内過酸 化を防止する食品成分について調べるには、実験に用いる脂質を実際の生 体と同じ様な条件に置くことが不可欠である。 ここで紹介するリポソームは脂質二重膜で、細胞膜と類似の構造をとる ため、生体内脂質過酸化反応のシミュレーションとして適当と考えられ、 生体内で有効な抗酸化物質の研究に有用である。 準備 【器具】 1.HPLC ポンプ、波長235nmの吸収を検出出来るUV検出器、4.6×150mm程度の Octylカラム、20μlのループがついたものインチグレ一タがついて いると良いあらかじめ慣らし運転をしておく(ベースラインが安定す るまで)。HPLCの条件は、流速1.5ml/分、検出波長235nmとする。そ の場合、注入後8〜12分くらいで過酸化されたレシチンが観測される。 流す溶媒は試薬の項参照。 2.シェーカーのついたウォーターバス 37Cに設定し、実験中光が当たらないよう箱などで覆う。 3.超音波発生装置(カップホーン型が望ましい) 4.リポソファスト Avestine(60 MacLaren St., Suite #404,Ottawa,Canada)が製造して いる。 5.試験管ミキサー 6.真空ポンプ 2方コックの付いたデシケ一夕ーなどに接続して使う。 【試薬】 1.卵黄レシチン(Egg yolk phosphatidylcholine) 上記のHPLCなどで精製してから使う。可能ならODSのローパーカラム を通し、各フラクションをoctylのTLCでチェックすると容易。なお、 OctylやODSなど逆相系では過酸化脂質が未酸化脂質よりも早く流出す る(TLCではよりRf値が大きい)ことに注意。クロロホルム溶液にしてお くと便利。 2.20mMms緩衝液(pH7.4)100ml 3.HPLC移動相 蒸留水50ml メタノール950ml それぞれHPLCグレードのものも売っているので、それを使ってもよ い。特級試薬を用いた場合には混合後、0.45μm程度のミリポアフィル ターでろ過する。いずれの場合も、使用直前に超音波を当てるか、ア スピレ一ターで減圧するなどして脱気する。 4.鉄/アスコルビン酸溶液 蒸留水1L 塩化鉄(III)6水和物16.2mg アスコルビン酸105.6mg この実験においてこの溶液は酸化剤として働く。他に銅/アスコルビ ン酸を用いたり、ラジカル発生剤であるAMVN(2,21-azobis(2,4- dimethylvaleronitrile))やAAPH(2,2'-azobis(2-aminopropane) dihydrochloride)を用いても良い。 操作の実際 1)測定したい物質をメタノールに溶かし、760μgのレシチンと良く混ぜ た後、窒素ガスを吹き付けて薄い膜状にする。他方、対照として等量のレ シチンだけを同じく膜状にする。両者を30分間、真空中でよく溶媒を除去 する。なお、膜状にしたレシチンは非常に酸化しやすいので注意。 2)それぞれの試験管に700μlの緩衝液を入れ、試験管ミキサーで良く混ぜる。 3)超音波発生装置を用い、超音波を照射する。カップホーン型の様な強 力なものなら30秒程度、洗浄用のものなら1分〜2分程度照射し、白濁した リポソームを作る。 4)3)をリポソファストに通して、単一膜のリポソームを作る(リポソファ ストの使い方はそのマニュアル参照)。普通21回程度フィルターを通過させ るといい。出来上がりは無色透明になる。 5)100μlの鉄/アスコルビン酸溶液を加え混ぜる。 6)キャップをしてウォーターバスでインキュベートする。1時間に1回、 反応液から100μl取り出し、クロロホルム、メタノールを100μlずつ加えた 後試験管ミキサーで混合、1,500×gで遠心分離して下層から50μlとり、窒 素気流で乾固した後100μlのメタノールに再溶解し、10μlをHPLCに注入する。 データの取りまとめ 横軸に酸化した時間、縦軸に過酸化脂質のピーク面積を取ってプロット したとき、傾きの小さいものほど抗酸化性が強い、といえるので、生体モ デル系での抗酸化性の強弱を比較することができる。 参考 この実験では脂溶性物質の抗酸化性を測定しているが、もし水溶性の物 質について抗酸化性を測定したい場合には、操作1ではサンプルを入れず、 200F1程度の緩衝液に溶かして操作4終了後にリポソームに加えてやるとよい。 参考文献 1)Terao J.,Nagao A.,Park D-K, Lim B.P.:MethodosinEnzymology, 213, 454-460(1992) 2)Arai H.,Suzuki T,Takama K,Terao J.:Biochem. Biophys. Res. Comm., 228,675-682(1996) (小林秀誉)
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