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この方法は、個々の細胞におけるDNA損傷を検出して行うものである。ス ライドグラスに包埋した細胞を界面活性剤と高濃度の塩を含むアルカリ溶 液で溶解した後、アルカリ条件下でDNA unwindingと電気泳動を行い、DNA損 傷を検出する。DNA損傷は蛍光顕微鏡下で観察するが、損傷のあるものは電 流の方向にそって尾をひく(コメットという)。抗変異原性の評価は、(1) 無処理の細胞、(2)変異原処理の細胞、(3)変異原+検体物質処理の細 胞におけるコメット率等を比較して行う。 準備 【器具】 1.ガラス容器(染色バット)及びスライドグラス用カゴ 2.スライドグラス及びカバーグラス 3.ウォーターバス 4.電気泳動槽 5.電源装置 6.蛍光顕微鏡 【試薬】 1.PBS(pH7.4) NaC18g KC10.2g 純水に溶かし、pH7.4に調整して1lにメスアップ Na2HP04・12H20 3.63g KH2P04 0.24g 注1)pHの調整はほとんど不要。 2.Lysis solution 2.5M NaCl(146.1g) 100mM EDTA(37.224g) 10mM Tris(1.2114g) 1% Nasarcosinate(33.3ml) 純水に溶かし、pH10.0に調整してlLにメスアップ 注1)試薬の量が多く溶けにくいので、溶かす順序を考慮する(NaClは最後)。 2)試薬を溶かしたままではpHが5.3程度と低いので、まずNaOHの粒で、 最終的には0.1N-NaOHでpHを調整する。 3)室温で遮光保存する(冷蔵庫で保存すると析出する)。 3.泳動buffer(用時調製) 300mM NaOH (12g) 1mM EDTA (0.3722g) 純水に溶かしpH 13.0 に調整して1lにメスアップ 注1)試薬を溶かしたままではpHが13.8程度と高いので、6N-HClで調整する。 4.0.4MTris-HCl(pH7.5) Trisを48.5g純水に溶かし(この時のpH10.8程度)、6N-HClでpHを7.5に調 整して、1lにメスアップする。 5.Propidiumiodide(PI) 1mg/mlのstocksolutionをつくって冷蔵庫に保管し、染色時にPBSで20倍 希釈して(50μg/ml)使用する(染色バット1個当たり150ml)。 注1)繰り返し使用可能である。 【細胞】 細胞により変異原に対する感受性が異なるので、対象検体に用いる変異 原に合った細胞を選択する。一般的には、浮遊細胞は操作が容易である。 【検体】 細胞の培地に溶解させ、滅菌フィルターを通して使う。 操作の実際 1.細胞の処理 細胞数をカウント後、1.0×10^6個/ml程度に調整し、下記の例に示す ようにそれぞれ目的に応じた処理を行う。 目的細胞 変異原 濃度 処理時間 培養時間 (例1)併存による抗変異原性HL-60 MNNG O.3μ9/m1 3h(検体+) Oh (例2)DNA損傷の修復効果HL-60MNNGO.3μ9/ml 3h(検体-)1h(検体+) (変異原-) 2.泳動ゲルの作成 (1)スライドグラスの準備 スライドグラスを染色バット中でメタノールに数時間浸漬して洗浄後、 ほこり等が再付着しないようにふた付き容器等に入れて乾燥させる。 (2)下層の作成 0.75%アガロース水溶液をつくり(0.075g/10m1電子レンジでlO〜20秒間 加熱して溶かす,60℃の湯浴中で保温)、75μlをスライドグラスのフロス ト面にのせて、ピペットチップの側面を使って全面にのばし(フロスト面 も一部分含める)、均等な厚さのアガロースの層をつくる。できれば、前 日に作業し、1晩乾燥させる。 注1)アガロースを溶かす時は、静かに純水を加え、電子レンジで加熱し て完全に溶けるまで容器はゆすらない。 (3)中層の作成 0.5%agroseinPBSをつくり(0.05g/10ml,電子レンジでlO〜20秒間加熱し て溶かす,37℃の湯浴中で保温)、100μlと細胞懸濁液10μlの割合でマイ クロチューブ中で混合する。(2)でつくったスライドグラスの上に75μl とり(真中に細長く)、気泡が入らないように注意しながらカバーグラス をかけた後、氷上で冷やしてゲル化させる。 2.Lysis (1)Lysis solution ストック溶液(150ml)に1%のTritonX-100(1.5ml)と10%のDMSO(15ml)を 加え、よく撹拝(スターラーで10分間以上)後、染色バットに入れて冷蔵 庫中で冷やしておく(用時調製,冷却3時間程度)。 (2)Lysis solutionへの浸漬 泳動ゲルが固まったら、ゲルを傷つけないよう慎重にカバーグラスを 横にずらすようにして取り除き、Lysis solutionに漬けて冷蔵庫中で1時 間以上静置する。 3. Unwinding〜Electrophoresis (1)泳動buffer サブマリン泳動層に入れる時に冷たくなるよう十分に冷却しておき、 スライドグラスの上2.5mm程度の水位となるようにする。 (2)Unwinding Lysisが終わったスライドグラスを泳動buffer中に並べ、20分間静置する。 (3)Electrophoresis 定電圧モード(電圧:20〜30V)で30分間泳動する。 4.Neutralize〜Stain (1)Neutralize O.4M-Tris-HCl(pH7.5)に5分間×3回浸漬し(150ml染色バット)、アルカ リを洗い流す。 (2)Stain Propidium iodidc in PBS(50μg/ml)に10分間浸漬した後(150ml染色バ ット)、純水に30秒間浸して洗う(150ml染色バット)。スライドグラスの 裏面を拭き取り、気泡が入らないようにカバーグラスをかける(ゲルの表 面がやや濡れている方がやりやすい一乾いた場合は水を滴下する)。 注1)Propidium iodideを扱うときは、手袋着用。 DNA損傷の検出と抗変異原性の評価 蛍光顕微鏡(515-560nm励起フィルターと590nmバリアーフィルター装着) により染色終了後のスライドグラスを観察する。DNAに損傷があれば、電 流の方向に沿って尾をひき(コメットという)、尾の長さが長いほど損傷 の程度が大きくなる。少なくとも50個以上(多ければ多いほどよい)の細 胞を観察し、コメットの有無とその程度(尾の鮮明さ、尾の長さ、核の大 きさ(直径)等)を調べる。最近になって画像解析装置とソフトが開発され てきているので、使用できれば便利かもしれない。 抗変異原性の評価は、(1)無処理の細胞、(2)変異原処理の細胞、 (3)変異原+検体物質処理の細胞におけるコメット率、DNA移動距離(尾 の長さ一核の直径)等を比較して行う。 参考文献 1) Singh ,N.P. et al.:Expt.Cell Res., 175,184-191 (1988) 2) Vijayalaxmi et al.:Mutat. Res., 271, 243-252 (1992) 3) 平井収, Tice, RR :細胞レベルでの高感度なDNA損傷検出法,変異原試 験法,3(1),1-ll,(1994) 4)Yendle et al.: Mutat. Res., 375, 125-136 (1997) (三輪操)
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