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アポトーシスは遺伝子によって制御された能動的な細胞死である。アポ トーシスが起こると、核クロマチンの凝縮、核の断片化、細胞の断片化及 びアポトーシス小体の形成が見られ、生じたアポトーシス小体は他の細胞 に貧食されて除去されることが知られている1)。がん細胞に、このような アポトーシスを誘導することによって、がんの抑制効果が期待できる。殆 どの場合において、アポトーシスは、ヌクレオソーム単位でのDNAの断片化 を伴うことが報告されている1)。 準備 【器具】 15mlディスポーザブルチューブ 6well培養プレート マイクロピペット(滅菌チップ) 血球計算盤 倒立型顕微鏡 スライドグラス カバーグラス 蛍光顕微鏡 恒温水槽 振とう機 試験管ミキサー マイクロチューブ マイクロ冷却遠心機 パスツールピペツト 遠心式濃縮器 電気泳動装置 電気泳動用電源 UVトランスイルミネ一夕ー ポラロイドカメラ(または、CCDカメラ) 【細胞、培地、試薬】 1. アポトーシス誘導能の測定法 1-1. 細胞 HL60細胞はヒューマンサイエンス研究支資源バンク(TEL: 06-945-2869,FAX:06-945-2872)及び理研ジーンバンク(TEL: 048-462-1111,FAX:048-462-4609)より入手できる。 1-2. 培地 RPMI1640培地。10%ウシ胎児血清を加えて培養する。 1-3. 血清 ウシ胎児血清。ロットチェックして異常のみられないもの。水浴 中、57℃で30分間インキュベーションし、非動化してから用いる。 1-4. DMSO(dimethylsulfoxide)あるいはエタノール 1-5. PBS(-)(滅菌) 2. 蛍光染色によるアポトーシス細胞の観察 2-1. 細胞固定液 1%グルタルアルデヒドin PBS 2-2. 蛍光染色液 1mMヘキスト33258 in PBS 3. DNA断片化の解析法 3-1. 抽出Buffer O.5%SDS、100mMEDTAを含む50mMms-HClbuffer,pH8.0 3-2. RNase溶液 RNase(Sigma)10mgを1mlの蒸留水に溶解し、−20℃に保存する。 3-3. Proteimse K溶液 Proteimse K(Sigma)10mgを1mlの蒸留水に溶解し、−20℃に保存する。 3-4. TE飽和Pheno1 遺伝子工学研究用(ニッポンジーン) 3-5. エタノール −20℃に保存しておく。 3-6. TE buffer lmM EDTAを含む10mM Tris-HCl buffer, pH8.0 3-7. TBE buffer 89mM Boric acid、2mM EDTAを含む89mM Tris-HCl buffer, pH8.0 3-8. 2%アガロースゲル 3-8-1. 2%アガロースになるように三角フラスコにアガロースを量り取 り、0.5%TBEを加えて懸濁する。 3-8-2. オートクレーブで110℃、10分間でアガロースを溶解する。 3-8-3. キャスティングトレーの両端をオートクレーブテープで止め、 コームをセットする。 3-8-4. アガロース溶液が60℃以下に冷えたら、EtBr(Ethidium bromide、 遺伝子工学用、(ニッポンジーン)を1/20000になるように添加し た後、トレーに流し込む。 3-8-5. アガロースが固まったら、テープを除き、泳動漕にセットする。 3-9. BPB溶液 bromophenol blue(BPB)1mg、グリセリン0.1ml吸び蒸留水0.9mlを 混和する。 操作の実際 1. アポトーシス誘導能の測定法2) 1-1. 細胞(HL60細胞等)を6wellプレートに1-2x10 5 cells/mlになるよ うに播種する。 1-2. アポトーシス誘導能を測定するサンプルは少量のDMSOあるいはエ タノールに溶解する。 1-3. 各wellにサンプルを添加し、C02インキュベーター内、95%湿度、 37℃の条件下で6〜24時間培養する。 1-4. 各wellの細胞浮遊液を15mlのチューブに入れ、約1200〜1500rpm で遠心して、細胞を回収する。 1-5. 回収した細胞について、蛍光染色してクロマチンの凝縮及び核の 断片化を観察する。また、電気泳動法によりDNAの断片化を解析する。 2. 蛍光染色によるアポトーシス細胞の観察3) 2-1. 回収した細胞に細胞固定液100μlを加えて、ピペッティングによ り静かに細胞を攪拌する。 2-2. 室温で30分間、インキュベーションする。 2-3. 遠心して細胞を回収し、上清を除去する。 2-3. PBSを加えて、ピペッティングにより攪拌、遠心して、細胞を洗 浄する。 2-4. 上清を除去した後、PBS 20μlを加えて、静に攪拌する。 2-5. 染色液(ヘキスト33258) 4μlを加えて、静に攪拌する。 2-6. スライドグラス上に細胞液、カバーグラスをのせ、蛍光顕微鏡下 で観察する。 3. DNA断片化の解析法4) DNAの抽出 3-1. 回収した細胞に抽出Buffer 1mlを加えて、溶解する。 3-2. RNase 5μlを添加し、370Cで30分間、インキュベーションする。 3-3. Proteinase K 10μ1を添加し、さらに、37℃で30分間、インキュ ベーションする。 3-4. TE 飽和 Phenol 1mlを加え、30分間ゆっくり攪拌する。 3-5. 2500rpmで15分間、遠心する。 3-6. 上清を15mlチューブに移し、-20℃に冷やしたエタノール2.5ml を加える。 3-7. 4℃で30分間、インキュベーションする。 3-8. 4℃、2500rpmで15分間、遠心する。 3-9. パスツールピペットで上清を除去する。 3-10. 遠心濃縮機等で、15〜30分間乾燥する。 3-11. TE buffer 100μlに溶解して、電気泳動用DNAサンプルとする。 電気泳動 3-12. 2%アガロースゲルを作成し、泳動槽にゲル全体が浸るまでTBE bufferを入れる。 3-13. マイクロチューブにDNAサンプル10μl及びBPB溶液2μlを入れ、 ミキサーでよく攪拌し、遠心してチューブの底にサンプルを集め ておく。 3-14. ゲルのコームをぬき、マイクロピペットでwellにサンプルを流 し込む。 3-15. 40〜60V程度で泳動する。 3-16.ゲルをUVトランスイルミネーター上で観察し、ポラロイドカメラ で撮影する。あるいはCCDカメラでコンピュータ上に画像を取り込む。 参考文献 1) 田沼靖一:アポトーシス実験プロトコール、青木一正、内海文彰、 丸太英晴編(秀潤社)pp.12-25 (1994) 2) Kobori,M, Shinmoto,H., Tsushida,T. and Shinohara,K.:Cancer Lett., l19, 207-212 (1997) 3) 塩川大介:アポトーシス実験プロトコール、青木一正、内海文彰、 丸太英晴編(秀潤社)、96-97(1994) 4) 天貝美江子、塩川大介ら:アポトーシス実験プロトコール、青木一正、 内海文彰、丸太英晴編(秀潤社)、132-142 (1994) (小堀真珠子)
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