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アラキドン酸代謝物のプロスタグランジンやロイコトリエンなどは、様 々な細胞より産生され、主に炎症反応のメディエータとして、アレルギー 反応に関わっていると考えられている。白血球より産生されるアラキドン 酸代謝物はアレルギー反応でも重要な役割をなしていると考えられ、これ らの産生を制御する成分はアレルギー反応を制御できるものと考えられる。 これらのアラキドン酸代謝物は一度に数種類産生されることが多く、高速 液体クロマトグラフィーでの一斉分析は有効な方法の一つである。また ELISAキットを用いた方法は、非常に簡便で高感度にだれでも測定可能で、 これらの方法を組み合わせることによって、より厳密な測定が可能となる。 準備 【動物】 ラット(SD、Wistarなど、200-300g、5w 雄) 【培養器具】 細胞培養器具一式、ELISA 96穴プレート用分光光度計など 【一斉分析測定器具】 高速液体クロマトグラフィー一式 【試薬】 カゼイン、可溶性でんぷん、Bacto Peptone、RPMI1640、FCS、Ca- ionophore、血小板活性化因子、LPS、アラキドン酸代謝物用ELISAキット 操作の実際 1. ラット多形核白血球を用いる場合 1. 1%カゼイン(Krebs Linger solutionに溶解したもの)を腹腔内に 5ml/100g wt投与する。16時間後脱血致死させた後、腹腔内に浸潤した 液を集める。この細胞は90%以上ほとんど多形核白血球である。赤血球 が混入していた場合、溶血処理として、0.2% NaClで約30秒懸濁、その 後、すぐに1.6% NaClで等張に戻し、赤血球を破壊する。培養液として RPMI1640メディウムあるいはHanks bufferなどを用いて、無血清で培 養して実験に用いる。 2. 刺激薬として、Ca-ionophore、血小板活性化因子、補体成分(C5a)な ど多形核白血球活性化する物質を加え、一定時間後、上清を採取し、 アラキドン酸代謝物測定の試料とする。被験試料は、刺激薬を加える 前に添加する。 3. この採取した上清は、酸性条件下でSEP-PAKなどの固相液相ミニカラ ムで脂溶性画分を採取する。すなわち、試料をカラムにアプライし、 水溶性物質を洗い流し、酢酸エチルなどで脂溶性画分を溶出させる。 溶媒を減圧乾固させた後、プロスタグランジン、トロンボキサンはそ れ自身強い紫外吸収を持たないため、一斉に分析するため、この画分 に蛍光誘導体化剤として9-Anthryldiazomethaneを加え、蛍光ラベル化 する。 4. この試料をもう一度、シリカ系のミニカラムで精製分取し、逆相系高 速液体クロマトグラフィーに適用し、分離測定する。多種類のアラキ ドン酸代謝物(プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン など)を一斉に分析することができる。条件は逆相系のカラムで約65〜 70%アセトニトリルで溶出、励起波長365nm、蛍光波長412nmで検出する。 アラキドン酸自身あるいは、ハイドロキシアラキドン酸などは、シリ カ系のミニカラムで精製する時、ラベル化剤の分画に溶出されるので、 この分画を分取し、別に測定を行う。約85%アセトニトリルでハイドロ キシアラキドン酸が、約95%でアラキドン酸が溶出される。ラット多形 核白血球はロイコトリエン産生が主である。 5. 高速液体クロマトグラフィーが使用できない場合、またある種の代謝 物を単独で高感度に測定したい場合、アラキドン酸代謝物のEIAキット を用いて測定する。 6. EIAキットでアラキドン酸代謝物を測定する場合、反応終了後、メデ ィウムを直接希釈するだけで試料として用いることが可能である。細 胞がダメージを受ける様な条件では、逆相系ミニカラムを使って脂溶 性画分を抽出すべきである。 2. ラット腹腔マクロファージを用いる場合 1. 5% 可溶性でんぷんと5% Bacto Peptoneを腹腔内に5ml/100g wt投与し て4日後、脱血致死させた後、腹腔内に浸潤した細胞を集め、RPMI1640 (10% FCS)で5% CO2-95% Airで培養する。2時間後非付着性細胞を洗浄 し、除いた後、24時間培養する。この細胞は90%以上マクロファージと なる。 2. 洗浄後、刺激薬として、Ca-ionophore、LPS、zymosanなどを加え一定 時間後、上清を採取し、アラキドン酸代謝物測定の試料とする。被験 試料は、刺激薬を加える前に添加する。 3. 多形核白血球と同様に、この上清をミニカラムで脂溶性画分を採取す る。この画分に蛍光誘導体化剤を加え、蛍光ラベル化する。 4.この試料を逆相系高速液体クロマトグラフィーに適用し分離測定する。 ラットマクロファージはLPS刺激で大量のPGE2を産生する。 5. 多形核白血球と同様に、高速液体クロマトグラフィーが使用できない 場合、またある種の代謝物を単独で高感度に測定したい場合、アラキ ドン酸代謝物のEIAキットを用いて測定する。 6. 多形核白血球と同様に、EIAキットでアラキドン酸代謝物を測定する 場合、反応終了後、メディウムを直接希釈するだけで試料として用い ることが可能である。細胞がダメージを受ける様な条件では、ミニカ ラムを使って脂溶性画分を抽出すべきである。 データのまとめ 刺激薬で産生されるアラキドン酸代謝物の量に対し、被検物質存在下で はどのくらい抑制されたかを求める。種々の代謝物を同時に測定する場合、 ある代謝物の産生が抑制され、同時に別の代謝物が増加する場合がある。 この場合それぞれの合成酵素に作用していることが推察される。 参考文献 1) 八巻幸二、大石幸子:ADAM法 新生化学実験講座9ホルモン・非ペプ チドホルモン、東京化学同人 pp.368-373 (1992) 2) 八巻幸二、大石幸子:アラキドン酸代謝物の測定法(1)蛍光標識−HPLC によるプロスタグランジンの測定 生物薬科学実験講座12炎症とアレ ルギー・廣川書店pp.520-533 (1993) 3) Yamaki K. et al.:" Comparison of eicosanoids production between rat polymorphonuclear lenkocytes and macrophages:Detection by high performance liquid chromatography with precolumn fluorescence labeling. " Jpn. J. Pharmacol. 58, 299-307 (1992). 4) Matsumoto H et al.:" Concordant induction of prostaglandin E2 synthase with cyclooxygenase-2 leads to prferred production of prostaglandin E2 over thromboxane and prostaglandin D2 in lipopolysacchande stimulated rat peritoneal macrophages." Biochem. Biophys. Res. Commun., 230, 110-114 (1996). (八巻幸二)
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