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白血球の血管内動態、例えばローリングや接着、血管外遊走などの測定 は主に生体顕微鏡を使った動的解析、すなわち動物を麻酔し、顕微鏡のス テージに乗せ、光の透過度の高い組織の血管(例えば腸間膜やハムスター の頬袋)を直接観察する方法によることが多い。しかし、この方法は麻酔 下の動物を直接観察するため、長時間の実験や純粋な薬物の効果などを観 察しにくい。 そこで、組織標本を作製して行う静的解析を開発した。この方法は試料の 長期の投与が可能なので、食品成分の長期投与試験も可能である。 準備 【動物】 ラット(SD、wistarなど、200g前後、5w 雄、ウサギ、モルモットなど の中動物でも可能、マウスは腸間膜の適切な血管を探しにくい) 【実験器具】 光学顕微鏡(マイクロメーターのついたもの)、Buker-Turk血球計算盤 【試薬】 起炎剤(IL-1、TNF、ヒスタミンなど)、ホルムアルデヒド、ギムザ染 色液、カナダバルサム、チュルク液、ペントバルビタール 操作の実際 1. ラットの腹腔内に起炎剤(例えばIL-1、TNF)などを投与し、腹膜炎を 惹起する。一定時間後殺す直前に尾動脈より血液中の細胞数を測定す るために採血する。血液が凝固しないうちにTurk液に入れ、血液中の 細胞測定用の試料とする。ペントバルビタール(60mg/ml, 0.2ml)を 心臓内に投与し、麻酔死させる。 2. 完全に心停止後、開腹し腸間膜細静脈を探し、サンプリングチュー ブ(エッペンドルフなど)の蓋と身の部分をカットしたものを、蓋の部 分には穴をあけておいたものなどでクリッピングして血管を採取する。 3. ホルマリン固定後、この腸管膜静脈をスライドグラスに乗せ接着乾燥 させる。これを常法通り、ギムザ染色し、カナダバルサムでマウント して組織標本を作製する。ローリング細胞数を測定する場合は、高倍 率光学顕微鏡下で、細静脈血管(直径20〜60μm)内を観察し、白血球を 分別しカウントする。浸潤細胞数を求める場合は、細静脈外の一定面 積中(一片が100〜200μm程度の正方形または長方形)の細胞数を測定す る。 4. 尾動脈から採血した血液は直ちにチュルク液(1:9)に入れ、血球計 算盤の高倍率で単球と多形核白血球を分別測定する。すなわち核の分 葉が確認できれば、多形核、確認できなければ単球とする。 データのとりまとめ 計算方法 【ローリングの指標】 血管の直径と長さを測定し、その中に存在する多形核白血球と単核球 を測定する。直径と長さよりその部位の容量を求め、血管内の細胞数 に対して、腸管脈静脈内の細胞が何倍に相当するか比を計算する。 約1の時ローリングはしていないことになる。 【浸潤の指標】 一定面積当たりの細胞数を測定しその時間に浸潤した細胞とする。 食品やその成分や食品抽出物の活性を測定するには、起炎剤投与前あ るいは同時に、腹腔内あるいは経口投与する。長期間の効果を調べるには、 前もって連続投与しておいたラットを用いることによって、白血球のロー リングあるいは浸潤に対する作用を調べることができる。 参考文献 1) Yamki K. et al.:" An approach for studies of mediator-induced lenkocyie rolling in the undisturbed microcirculation of the rat mesentery." Br. J. Pharmacol., 123, 381-389 (1998). 2) Yamaki K. et al.:"Characteristics of histamine-induced lenkocyie rolling in the undisturbed microcirculation of mesentery." Br. J. Pharmacol., 123, 390-399 (1998). (八巻幸二)
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