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サンプリング計画の評価手順 |
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ここでは、FAOから1993に刊行された"Sampling plans for aflatoxin analysis
in peanuts and corn"で紹介されている評価方法をベースに関連文献で補足しながらサプリング計画評価手順を紹介します。アフラトキシン以外のかび毒はもちろん、カビ毒以外についても定量型抜き取り検査のサンプリング計画を評価するときの参考になります。
アフラトキシンは経口発がん性が認められている大変危険なかび毒です。アフラトキシンを産生する菌には植物病原性がないため圃場一面に汚染が広がるようなことはなく、ピーナッツやコーンなどの粒表面に傷があり、その傷口から菌が粒内に侵入すると感染します。そのため汚染された粒のアフラトキシン濃度は非常に高く危険ですが、汚染されている粒数が限られるため、汚染された粒がどの程度含まれるかでロットやサンプルのアフラトキシン濃度は広い濃度範囲でばらつきます。アフラトキシン濃度のばらつきが大きいのでアフラトキシンのための抜き取り検査ではサンプリングの仕方が大変重要になります。
アフラトキシンの分析値のばらつきは分析方法によって変わりますが、分析方法が同じでもロットから抜き取るサンプル量、サンプルを粉砕するときの粒の細かさ、粉砕したサンプルから取り出す分析用サンプルの量、同一抽出液を分析する回数などが影響します。
OC(Operating Characteristic)曲線はロットのアフラトキシン濃度とロットの合格率の関係を示す以下のようなグラフです。
OC曲線の例
Mc:ロットの合格基準値
サンプリング方法(ロットから抜き取るサンプル量、サンプルを粉砕するときの粒の細かさ、粉砕したサンプルから取り出す分析用サンプルの量、分析用サンプルを分析する回数)によってOC曲線の形が変わり、各濃度のロットが合格する確率も変わります。
FAOから1993年に刊行されました"Sampling plans for aflatoxin analysis in peanuts and corn"では、規制値Mc以下のロットが不合格になる確率の合計(上図の青い斜線部分の面積)を偽陽性率(false positive)又は輸出する側の危険(exporter's risk)、規制値Mcを超えたロットが合格する確率の合計(上図の赤き斜線部分の面積)を偽陰性率(false negative)又は輸入する側の危険(importer's risk)と読んでいます。
そこで、サンプリング方法によって偽陽性率と偽陰性率がどの程度変化するのかをOC曲線を用いて評価します。
ロットから抜き取るサンプル量によるOC曲線の変化
上図ではロットからのサンプリング量が20kgと5kgの場合のOC曲線を示しています。サンプル量が増えると偽陽性率、偽陰性率ともに減少します。
ここで注意が必要なことは、実際にロットを検査したときの偽陽性率と偽陰性率は上述しましたOC曲線の斜線部分の面積だけでは決まらない点です。ロットのアフラトキシン濃度の分布が、濃度に依存せず一様ならば、上述の斜線部分の面積が実際に検査したときの偽陽性率と偽陰性率になります。しかし、以下の4)に示すロットの頻度分布のように大多数のロットのアフラトキシン濃度はゼロ付近の値であり、基準値を超えるロットは少ないため、実際の検査時の偽陽性率と偽陰性率はOC曲線とロットの頻度分布から決まります。
以下の4)に示す頻度分布をもつロットを合格基準値15μg/kgで検査したとき、サンプル量20kgでは検査したロット数の5.4%が偽陽性に判定され、6.8%が偽陰性に判定されます。これが、サンプル量5kgでは検査したロット数の5.7%が偽陽性に判定され、9.0%が偽陰性に判定されます。
1)ロット判定基準及び分析サンプルの合格基準の決定 |
サンプリング計画の良し悪しを評価するには、ロットおよびサンプルの合否を判定する基準値が必要です。Codexで決められた国際的基準値や食品衛生法の基準値などを参考に決定します。ロット判定基準値とサンプル判定基準値は異なる値にする場合もありますし、同じ値にする場合もあります。同じ値にした場合、偽陽性率(False
positive)偽陰性率(False nagative)が大体バランスします。
偽陽性とはロットのアフラトキシン濃度は基準値以下なのにサンプルの分析値が基準値を超えている場合です。偽陰性とはロットのアフラトキシン濃度は基準値を超えているのにサンプルの分析値は基準値以下の場合です。このようなことは分析値がばらつきをもつために発生します。アフラトキシン分析値の場合、ばらつきの一番の原因はロット内の位置によりアフラトキシン汚染の程度が大きく異なることです。
アフラトキシンの基準値
Codex:アフラトキシンB1、B2、G1、G2の合計濃度が15ppb以下
日本 :アフラトキシンB1の濃度が10ppb以下
2)分析値のばらつきとアフラトキシン濃度の関係を示すモデル式 |
分析値のばらつきは一般的に、
a)サンプリングによるばらつき(ロット内のばらつきが大きいことが原因)
b)分析サンプルを調製するための前処理によるばらつき
c)分析方法による誤差
の3つの要因に分けられます。
ばらつきの大きさに影響を与えるものは、
a)に影響するもの: |
抜き取るサンプル量
抜き取り方(例、ロットの1箇所から抜き取るか複数箇所から抜き取るか) |
b)に影響するもの: |
粉砕したサンプルの粒の細かさ(粉砕機の種類やメッシュサイズにより細かさ変化)
最初に粗く粉砕し、そのサンプルの一部を抜き取って細かく粉砕した場合、ここで抜き取る粉の量もb)に影響します。 |
c)に影響するもの: |
分析手法(HPLC、TLC、ELISAなど)
分析の前処理方法(抽出方法など)
分析の反復回数 |
などがあります。
サンプル量を変えたらサンプリングによるばらつきはどのように変化するのか、粉砕機のメッシュサイズを変えたら、サンプル調製によるばらつきはどのように変化するのか、分析の反復数を変えたら分析方法によるばらつきはどのように変化するのか、そしてこれらのばらつきが変化した結果、抜き取り検査の精度(偽陽性率や偽陰性率)はどのように変化するのかを評価するためには、以下の図に示すような各要因ごとのばらつきの特性(アフラトキシン濃度と変動係数の関係式)を知っている必要があります。その理由は3)で説明しますロット内のアフラトキシン濃度分布を表すモデル式の変数として分析値のばらつきの大きさを用いるからです。
以下の図を作成するためには約1000サンプルの分析が必要です。
殻なし落花生のアフラトキシン濃度と誤差の大きさの関係
ロットから取ったサンプル量:5.4kg、粉砕したサンプルから取った分析サンプルの量:280g、
分析回数:1回、分析方法:Waltking法、引用文献:Whitakerら(1974)
小麦のデオキシニバレノール(DON)濃度と誤差の大きさの関係
ロットから取ったサンプル量:454g、粉砕したサンプルから取った分析サンプルの量:25g、
分析回数:1回、分析方法:Fluoroquant法、引用文献:Whitakerら(2000)
分析値のばらつきに関するモデル式には以下のような報告があります。
殻なし落花生のアフラトキシン:Whitakerら(1974)
皮むきコーンのアフラトキシン:Johanssonら(2000a)(154KB A4サイズ
2ページ)
小麦のデオキシニバレノール:Whitakerら(2000)(161KB A4サイズ 2ページ)
3)ロット内のアフラトキシン濃度分布を表すモデル式 |
ロットのアフラトキシン濃度(同一ロットから複数抜き取ったサンプルのアフラトキシン濃度の平均値)によりロット内のアフラトキシン濃度の頻度分布の形は以下の図に示すように異なります。
殻なし落花生のロット内アフラトキシン濃度の頻度分布
ミニロット54kgを10分割し、5.4kgのサンプルを粉砕して250gのサブサンプルをWaltking法で分析
引用文献:Whitaker and Dickens (1972)
偽陽性率および偽陰性率を計算するためにはOC曲線と以下の図に示すようなロットの頻度分布が必要です。
落花生のアフラトキシン濃度のロット単位の頻度分布
引用文献:FAO(1993)
1) |
OC曲線を用いて検討するサンプリング条件(ロットから抜き取るサンプル量、粉砕したサンプルから取り出す分析用サンプルの量、分析回数)を決めます。 |
2) |
1)で決定したサンプリング条件を分析値のばらつき(分散)のアフラトキシン濃度による変化を示す式に代入します。
分析値のばらつきの濃度依存モデルに関する参考文献:
・殻なし落花生のアフラトキシン:Whitakerら(1974)
・皮むきコーンのアフラトキシン:Johanssonら(2000a)(154KB A4サイズ 2ページ)
・小麦のデオキシニバレノール:Whitakerら(2000)(161KB A4サイズ
2ページ)
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3) |
ロット内のアフラトキシン濃度分布を示すi以下の文献内のモデル式に2)で求めた式を代入します。
ロット内濃度分布のモデル式の参考文献:
・殻なし落花生のアフラトキシン:Whitakerら(1976)
・皮むきコーンのアフラトキシン:Johanssonら(2000b, c)
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4) |
ロットのアフラトキシン濃度を3)のモデル式(上記の文献参考)に代入すると、そのロットから抜き取ったサンプルのアフラトキシン濃度の相対頻度分布(出現確率の分布)が求まります。 |
5) |
アフラトキシン濃度がゼロからサンプルの合格基準値までの範囲で相対頻度分布の曲線の下側の面積を数値積分の公式を用いて求めます。求めた面積は4)で代入したアフラトキシン濃度をもつロットの合格率になります。 |
6) |
ロットのアフラトキシン濃度を変えて4)と5)を繰り返すことにより、OC曲線を作成するのに必要な各アフラトキシン濃度におけるロットの合格率が得られます。 |
1) |
OC曲線を作成したデータからロットのアフラトキシン濃度と合格率を以下の表の1列目と2列目のように入力します。
3列目の不合格率は(1-合格率)で計算します。 |
2) |
ロットの頻度分布データから累積相対頻度を求め、以下の表の4列目のように入力します。
青字は頻度分布データが存在したアフラトキシン濃度を示し、データが存在しなかったアフラトキシン濃度の累積相対頻度は両側の値を均等割りして計算で求めています。 |
3) |
累積相対頻度の差から5列目の区間内比率を計算します。
例えば、アフラトキシン濃度1μg/kgの区間内比率は0〜1μg/kgの範囲に入るロットの割合を、20μg/kgの区間内比率は18〜20μg/kgの範囲に入るロットの割合を示します。
1μg/kgの区間内比率0.052=0.360-0.308は1μg/kgの累積相対頻度(0.360)-0μg/kgの累積相対頻度(0.308)で計算しています。 |
4) |
1000ロットあったと仮定した場合の合格ロット数を6列目に、不合格ロット数を7列目に計算しています。合格ロット数は、
合格ロット数 = 1000(ロット)×区間内比率×(当該濃度の合格率+1区分低濃度の合格率)/2
で計算しています。
例えば、10μg/kgの合格ロット数は1000×0.029×(0.775+0.807)/2=22.8になります。
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5) |
ロットの合格基準値を15μg/kgとした場合、0〜15μg/kgの不合格ロット数の合計(53.6)を計算し、総ロット数1000で割った値が偽陽性率(5.4%)になります。 |
6) |
ロットの合格基準値を15μg/kgとした場合、15ppbよりアフラトキシン濃度が高いロットの合格ロット数の合計(67.8)を計算し、総ロット数1000で割った値が偽陰性率(6.8%)になります。
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