国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

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研究資料
平成30年3月23日
農研機構 農業環境変動研究センター

2017年夏季の農業気象(高温に関する指標)

はじめに

近年、夏季の高温による農作物の被害が多発しています。ここでは、水稲の生育に影響を与える 2017 年夏季の農業気象の概況を整理しました。具体的には、猛暑日と熱帯夜、ならびに水稲の登熟期間の平均気温の地域的な特徴を示し、気象データに基づく穂温の推定結果についても紹介します。

概要

1.1km メッシュの気温分布 5)注1)を使用した解析によると、2017 年の猛暑日(日最高気温 35 ℃以上)の記録回数は、1994 年以降の 24 年間で東日本が 22 番目、西日本が 13 番目の順位で、両地域とも過去 24 年間の平均記録回数を下回りました。一方、熱帯夜(日最低気温 25 ℃以上)の記録回数は、東日本が 8 番目、西日本が 2010、2013 年に続く 3 番目の順位となりました。

2.登熟前半の平均気温が 26 ℃を超えると、品質の低下リスクが増加します。出穂日から 20 日間(登熟前半)の平均気温が 26 ℃を超える地域は、関東と北陸以西の標高が低い平坦地に広く分布していました。関東では 8 月の気温が平年を下回った影響で、26 ℃を超える地域が平野部の一部に限定されました。

3.7 月上~中旬の平均穂温(推定値)は全国的に平年よりかなり高く、特に北日本と関東では例年にない高温であったことが、穂温モデルによる解析で示されました。多くの地域で出穂期~登熟期となる 7 月下旬から 9 月上旬にかけては、関東や東北で平年よりやや低めに、その他の地域では平年並みかやや高め(7 月下旬~ 8 月上旬の西日本)に推移しました。

(注1) アメダス地点の日最高気温と日最低気温の定義は年代によって変化し、そのままでは長期の気候変動解析には利用できません。本解析では、時別の気温観測データを用いて各地点の日平均/日最高/日最低気温を算定し、それらのデータに基づき長期解析用の1kmメッシュの気温分布を算定しました。前年度までに公表した資料(「2013年夏季の農業気象」から「2016年度夏季の農業気象」まで)でも、同様な方法で作成した1kmメッシュの気温分布を利用しています。

内容

1.猛暑日と熱帯夜

2017 年の猛暑日(日最高気温 35 ℃以上)の記録回数は、夏季の高温化が顕著になった 1994 年以降の 24 年間で、東日本が 22 番目、西日本が 13 番目の順位でした。また熱帯夜(日最低気温 25 ℃以上)の記録回数は、東日本が 2 番目、西日本が 3 番目の順位で、西日本では 2010、2013 年に続く多さでした。猛暑日と熱帯夜の記録日数は過去 40 年間( 1978 年以降)で増加傾向にあり、猛暑日は 1994 年(特に西日本)、熱帯夜は 2010 年(特に東日本)がそれぞれ最多となっています(図1)。2017 年 6~9 月の平均気温は北陸以北の日本海側の一部を除き平年より高めでしたが 3) 4)、猛暑日の出現頻度は比較的少なく、熱帯夜の出現数は西日本を中心に多めの年になりました(図1)。

次に猛暑日と熱帯夜の発生程度を表す日中と夜間の高温指標2) を用いて、それらの分布の特徴を調べました(図2)。2017 年は、関東内陸(埼玉県と群馬県、栃木県の県境)と九州北西部(福岡県や熊本県の平野部など)以外では、猛暑日の発生はほとんど認められませんでした。熱帯夜については、関東地方と東海の沿岸部と西日本(近畿以西)の平野部に、発生頻度が高い地域が分布していました(図2)。

2.登熟期間の平均気温と暑熱指数

出穂日から 20 日間(登熟前半)の平均気温が 26 ℃を超えると、水稲の白未熟粒の発生が増大し、品質の低下リスクが生じるとされています 7)。2017 年はそのような地域が関東、北陸以西の標高が低い平坦地に広く分布していました(図3)。一方、関東では 8 月の気温が平年を下回った影響で 3)、26 ℃以上の地域は平野部の一部に限定されました。東海以西の分布は 2016 年と類似し 6)、沿岸の平野部では 28 ℃以上の高温の地域も一部に見られました。出穂日から 20 日間の平均気温が 26 ℃を超える地域は、この期間の暑熱指数 HD_m26 が 20 ℃×day 以上の地域にほぼ対応します(図3)。

3.日中( 10 ~ 12 時)における推定穂温

2017 年 7 月上~中旬の日中(10~12 時)における推定穂温は、全国的に平年よりかなり高く、特に北日本と関東では例年にない高温となりました。多くの地域で水稲の出穂期にあたる 7 月下旬から 8 月中旬は、オホーツク海高気圧による低温・寡少の影響により 3)北日本と関東で太平洋側を中心に平年よりかなり低くなり、中国、四国、九州では平年よりやや高め、それ以外では平年並と推定されました。登熟期にあたる 8 月下旬から 9 月上旬は、関東や東北の一部で平年よりやや低く、その他の地域では平年並と推定されました。

引用文献

1) Ishigooka Y., Fukui S., Hasegawa T., Kuwagata T., Nishmori M., and Kondo M. (2017) Large-scale evaluation of the effects of adaptation to climate change by shifting transplanting date on rice production and quality in Japan, J. Agric. Meteorol., 73(4): 156-173.

2) Ishigooka Y., Kuwagata T., Mishimori M., Hasegawa T., Ohno H. (2011) Spatial characterization of recent hot summers in Japan with agro-climatic indices related to rice production, J. Agric. Meteorol., 67(4): 209-224.

3) 気象庁(2017)夏(6~8月)の天候. http://www.jma.go.jp/jma/press/1709/01b/tenko170608.html

4) 気象庁(2017)9月の天候. http://www.jma.go.jp/jma/press/1710/02b/tenko1709.html

5) 清野 豁 (1993) アメダスデータのメッシュ化について.農業気象,48(4): 379-383.

6) 農研機構 農業環境変動研究センター(2017)2016年夏季の農業気象(高温に関する指標).研究資料,http://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/agromet/2016.html

7) 森田 敏 (2008) イネの高温登熟障害の克服に向けて.日本作物学会紀事, 77(1): 11-12.

8) Yoshimoto, M., Fukuoka M., Hasegawa T., Utsumi M., Ishigooka Y., and Kuwagata T. (2011) Integrated micrometeorology model for panicle and canopy temperature (IM2PACT) for rice heat stress studies under climate change, J. Agric. Meteorol., 67: 233-247.

担当研究者

農研機構 農業環境変動研究センター 気候変動対応研究領域

桑形 恒男
石郷岡康史
吉本真由美
西森 基貴

農研機構 東北農業研究センター 生産環境研究領域

長谷川利拡

問い合わせ先

代表研究者:

農研機構 農業環境変動研究センター 気候変動対応研究領域

作物温暖化応答ユニット長  桑形 恒男
TEL 029-838-8202

広報担当者:

農研機構 農業環境変動研究センター

広報プランナー  大浦 典子
TEL 029-838-8191
電子メール niaes_kouhou@ml.affrc.go.jp

日最高気温が35度以上になった回数と日最低気温が25℃以上になった回数を東日本と西日本に分けて表示(グラフ)

図1.日最高気温が 35 ℃以上になった回数(左図)と日最低気温が 25 ℃以上になった回数(右図)の年々変化 ( 1978 - 2017 年の過去 39 年間)

1981 - 2000 年の 20 年平均値を 100 とした時の相対値。1km メッシュの気温分布 5) (長期の気候変動解析用(注1))に基づき算定。ここで、東日本は中部地方より東の地域に対応し、西日本は近畿地方より西の地域が対応する(ただし北海道と沖縄は含まず)。

(全国マップ)
(全国マップ)

図2.日中の高温指標 HD_x35(℃×day)(上図)と夜間の高温指標 HD_n25(℃×day)(下図)の分布(2017 年) 1kmメッシュの気温分布 5)注1)に基づき算定。

2つの高温指標は次式で定義され 2)、それぞれ猛暑日と熱帯夜の発生程度を表している。

HD_x35(℃×day)= ∑[max(Tmax-35, 0)]

:日最高気温 Tmax が 35 ℃以上の日(猛暑日)の気温超過量を毎日積算する。

HD_n25(℃×day)= ∑[max(Tmin-25, 0)]

:日最低気温 Tmin が 25 ℃以上の日(熱帯夜)の気温超過量を毎日積算する。

過去 25 年間における日中と夜間の高温指標の分布 (1993~2017年) を、参考資料として 図A1 および 図A2 に示した。

(全国マップ)
(全国マップ)

図3.水稲の出穂日から 20 日間の平均気温(上図)と暑熱指数 HD_m26(℃×day)(下図)の分布(2017年)

1kmメッシュの気温分布 5)注1)に基づき算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得。

水稲の出穂日から 20 日間の暑熱指数 HD_m26 は次式で定義され 1) 2)、この値がおよそ 20(℃×day)を越えると、品質低下のリスクが増すとされる。

HD_m26(℃×day)= ∑[max(T-26, 0)]

(出穂日から 20 日間の期間で日平均気温 T を積算)

過去 25 年間における水稲の出穂日から 20 日間の平均気温と暑熱指数 HD_m26 の分布(1993~2017 年)を、参考資料として 図A3 および 図A4 に示した。

48の気象台(旭川、札幌、・・・、鹿児島、宮崎)の気象データをもとにしたグラフ

図4.7/1-20、7/21-8/20 ならびに 8/21-9/10 における、全国各地の日中(10~12 時)の平均穂温の推定値の分布

出穂・開花期においては、10~12時は開花時刻にほぼ対応する。エラーバーは日々の標準偏差を示す。
2017 年と 2010、2013、2016 年の結果、ならびに 1981 - 2010 年の 30 年間の平均値。各気象台地点の気象データと穂温モデル 8) より算定。

(全国メッシュマップ25枚)

図A1.過去25年間における日中の高温指標 HD_x35 (℃×day) の分布(1993~2017年)

図A1 高解像度ファイル(3200px×2400px、0.9MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A2.過去25年間における夜間の高温指標 HD_n25 (℃×day) の分布(1993~2017年)

図A2 高解像度ファイル(3200px×2400px、1.0MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A3.過去25年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温分布(1993~2017年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。

図A3 高解像度ファイル(3200px×2400px、1.7MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A4.過去25年間における水稲の出穂日から20日間の暑熱指数 HD_m26(℃×day)の分布(1993~2017年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。

図A4 高解像度ファイル(3200px×2400px、1.5MB)

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