国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

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研究資料
平成31年4月1日
農研機構 農業環境変動研究センター

2018年夏季の農業気象(高温に関する指標)

はじめに

近年、夏季の高温による農作物の被害が多発しています。ここでは、水稲の生育に影響を与える 2018 年夏季の農業気象の概況を整理しました。具体的には、猛暑日と熱帯夜、ならびに水稲の登熟期間の平均気温の地域的な特徴を示し、気象データに基づく穂温の推定結果についても紹介します。

概要

1.1km メッシュの気温分布 5)注1)を使用した解析によると、2018 年の猛暑日(日最高気温 35 ℃以上)の記録回数は、1994 年以降の 25 年間で東日本が 1 番目、西日本が 1994 年に次いで 2 番目の順位でした。一方、熱帯夜(日最低気温 25 ℃以上)の記録回数は、東日本が 1 番目、西日本では 2010 年に次いで 2 番目の順位となり、東日本・西日本とも記録的な猛暑となりました。

2.登熟前半の平均気温が 26 ℃を超えると、品質の低下リスクが増加します。出穂日から 20 日間(登熟前半)の平均気温が 26 ℃を超える地域は、関東以西の標高が低い平坦地に広範囲に分布し、最近の高温年である 2013 年の分布と類似していました。

3.穂温モデルを用いた解析により、7 月後半の穂温が、記録的な猛暑年の 2010 年を大きく上回った可能性が示されました。8 月前半についても、この時期に記録的な高温であった 2007 年と同程度の高さであったことが示唆されました。2018 年の夏は季節内の気温の変化が比較的大きく、出穂日が高温の時期と一致した地域では、イネが開花時の高温障害を受けた可能性があります。

(注1) アメダス地点の日最高気温と日最低気温の定義は年代によって変化し、そのままでは長期の気候変動解析には利用できません。本解析では、時別の気温観測データを用いて各地点の日平均/日最高/日最低気温を算定し、それらのデータに基づき長期解析用の 1km メッシュの気温分布を算定しました。前年度までに公表した資料(「2013年夏季の農業気象」から「2017年度夏季の農業気象」まで)でも、同様な方法で作成した 1km メッシュの気温分布を利用しています。

内容

1.猛暑日と熱帯夜

2018 年の猛暑日(日最高気温 35 ℃以上)の記録回数は、夏季の高温化が顕著になった 1994 年以降の過去 25 年間で、東日本が 1 番目、西日本が 1994 年に次いで 2 番目の順位でした(図1)。また熱帯夜(日最低気温 25 ℃以上)の記録回数は、東日本が猛暑日と同様に 1 番目、西日本が 2010 年に次いで 2 番目の順位でした (図1)。猛暑日と熱帯夜の記録日数は過去 40 年間(1978 年以降)で増加傾向にあり、東日本では 2018 年にいずれの回数とも、過去の記録を塗り替えました。2018 年は北海道と沖縄・奄美以外の大部分の地域で、夏(6~8 月)の平均気温が平年より 1 ℃以上高く、特に関東甲信・北陸・東海地方では平年比 +1.7 ℃と、1946 年の統計開始以降で最も高温となりました 3)。全国の気象官署(153 地点)の約 3 分の 1 の地点で、夏の平均気温が歴代 1 位(タイを含む)の高さを記録し、7 月 23 日に熊谷(埼玉県)で歴代全国 1 位の日最高気温 41.1 ℃を更新しました 3)

次に猛暑日と熱帯夜の発生程度を表す日中と夜間の高温指標 2) を用いて、気温分布の特徴を調べました (図2)。2018 年は、埼玉県から群馬・栃木県南部にかけての関東内陸と、東海、近畿地方、九州北西部の平野部に猛暑日の発生程度が高い地域が見られ、特に関東内陸と東海では広域に分布していました。また熱帯夜の発生程度が高い地域は、関東南部、東海、近畿、九州北西部の平野部と、瀬戸内沿岸や北陸地方の一部に分布していました (図2)。これらの分布パターンは、2010 年や 2013 年 6) などの近年の猛暑年と、特徴が類似しています (図A1図A2)

2.登熟期間の平均気温と暑熱指数

出穂日から 20 日間(登熟前半)の平均気温が 26 ℃を超えると、水稲の白未熟粒の発生が増大し、品質の低下リスクが生じるとされています 7)。2018 年はそのような地域が関東以西の標高が低い平坦地に広範囲に分布し、東海地方を中心に 28 ℃以上の高温の地域も認められました (図3)。これら分布のパターンは、同じく猛暑年であった 2013 年の分布 6) とも類似しています(図A3)。出穂日から 20 日間の平均気温が 26 ℃を超える地域は、この期間の暑熱指数 HD_m26 が高い地域とほぼ対応し、平均気温が 28 ℃を超える地域での HD_m26 は、40 ℃×day 以上となっています (図3)。

3.日中における推定穂温

2018 年 7 月後半(7/14 - 31)の開花時刻(10~12 時)における推定穂温は、全国的に記録的な高さとなり、猛暑年の 2010 年を大きく上回りました。8 月前半(8/1 - 15)の推定穂温も 2010 年をやや上回り、この時期に記録的な高温であった 2007 年と同程度、または一部地域(九州)では 2007 年を超える高さとなりました。8 月後半(8/16 - 31)になると、2007 年と同様に平年値レベルまでに低下し、九州を除いて 2010 年の推定穂温を下回りました (図4)。

出穂日前後 7 日間の日中(10~15 時)における平均穂温の推定値の分布を見ると、千葉県東部、東海地方、北陸以西の日本海側、九州北部などの標高が低い地域で、33 ℃以上の高穂温の地域が認められます (図5)。2018 年の夏は季節内の気温の変化が比較的大きく 3)、出穂日が高温の時期と一致した地域で、穂温の上昇が予想されました。

引用文献

1) Ishigooka Y., Fukui S., Hasegawa T., Kuwagata T., Nishimori M., and Kondo M. (2017) Large-scale evaluation of the effects of adaptation to climate change by shifting transplanting date on rice production and quality in Japan, J. Agric. Meteorol., 73(4): 156-173.

2) Ishigooka Y., Kuwagata T., Mishimori M., Hasegawa T., and Ohno H. (2011) Spatial characterization of recent hot summers in Japan with agro-climatic indices related to rice production, J. Agric. Meteorol., 67(4): 209-224.

3) 気象庁(2018)夏(6~8月)の天候. http://www.jma.go.jp/jma/press/1809/03c/tenko180608.html

4) Kuwagata T., Yoshimoto M., Ishigooka Y., Hasegawa T., Utsumi M., Nishimori M. Masaki Y., and Saito O. (2011) MeteoCrop DB: an agro-meteorological database coupled with crop models for studying climate change impacts on rice in Japan, J. Agric. Meteorol., 67(4): 297-306.

5) 清野 豁 (1993) アメダスデータのメッシュ化について.農業気象,48(4): 379-383.

6) 農研機構 農業環境変動研究センター(2014)2013年夏季の農業気象(高温に関する指標).研究資料,http://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/agromet/2013.html

7) 森田 敏 (2008) イネの高温登熟障害の克服に向けて.日本作物学会紀事, 77(1): 11-12.

8) Yoshimoto, M., Fukuoka M., Hasegawa T., Utsumi M., Ishigooka Y., and Kuwagata T. (2011) Integrated micrometeorology model for panicle and canopy temperature (IM2PACT) for rice heat stress studies under climate change, J. Agric. Meteorol., 67(4): 233-247.

担当研究者

農研機構 農業環境変動研究センター 気候変動対応研究領域

桑形 恒男
石郷岡康史
吉本真由美
西森 基貴

農研機構 東北農業研究センター 生産環境研究領域

長谷川利拡

問い合わせ先

代表研究者:

農研機構 農業環境変動研究センター 気候変動対応研究領域

作物温暖化応答ユニット長  桑形 恒男
TEL 029-838-8202

広報担当者:

農研機構 農業環境変動研究センター

広報プランナー  大浦 典子
TEL 029-838-8191
電子メール niaes_kouhou@ml.affrc.go.jp

日最高気温が35度以上になった回数と日最低気温が25℃以上になった回数を東日本と西日本に分けて表示(グラフ)

図1.日最高気温が 35 ℃以上になった回数(左図)と日最低気温が 25 ℃以上になった回数(右図)の年々変化 ( 1978 - 2018 年の過去 40 年間)

1981 - 2000 年の 20 年平均値を 100 とした時の相対値。1km メッシュの気温分布 5) (長期の気候変動解析用(注1))に基づき算定。ここで、東日本は中部地方より東の地域に対応し、西日本は近畿地方より西の地域が対応する(ただし北海道と沖縄は含まず)。

(全国マップ)
(全国マップ)

図2.日中の高温指標 HD_x35(℃×day)(上図)と夜間の高温指標 HD_n25(℃×day)(下図)の分布(2018 年) 1kmメッシュの気温分布 5)注1)に基づき算定。

2つの高温指標は次式で定義され 2)、それぞれ猛暑日と熱帯夜の発生程度を表している。

HD_x35(℃×day)= ∑[max(Tmax-35, 0)]

:日最高気温 Tmax が 35 ℃以上の日(猛暑日)の気温超過量を毎日積算する。

HD_n25(℃×day)= ∑[max(Tmin-25, 0)]

:日最低気温 Tmin が 25 ℃以上の日(熱帯夜)の気温超過量を毎日積算する。

過去 25 年間における日中と夜間の高温指標の分布 (1994~2018年) を、参考資料として 図A1 および 図A2 に示した。

(全国マップ)
(全国マップ)

図3.水稲の出穂日から 20 日間の平均気温(上図)と暑熱指数 HD_m26(℃×day)(下図)の分布(2018年)

1kmメッシュの気温分布 5)注1)に基づき算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得。

水稲の出穂日から 20 日間の暑熱指数 HD_m26 は次式で定義され 1) 2)、この値がおよそ 20(℃×day)を越えると、品質低下のリスクが増すとされる。

HD_m26(℃×day)= ∑[max(T-26, 0)]

(出穂日から 20 日間の期間で日平均気温 T を積算)

過去 25 年間における水稲の出穂日から 20 日間の平均気温と暑熱指数 HD_m26 の分布(1994~2018 年)を、参考資料として 図A3 および 図A4 に示した。

48の気象台(旭川、札幌、・・・、鹿児島、宮崎)の気象データをもとにしたグラフ

図4.7 月後半(7/14 - 31)、8 月前半(8/1 - 15)ならびに 8 月後半(8/16 - 31)における、全国各地の開花時刻(10~12 時)の平均穂温の推定値の分布

出穂・開花期においては、10~12 時は開花時刻にほぼ対応する。エラーバーは日々の標準偏差を示す。
2018 年と 2007、2010 年の結果、ならびに 1981 - 2010 年の 30 年間の平均値。「モデル結合型作物気象データベース」(MeteoCropDB) 4) で提供される各気象台地点の気象データと穂温モデル 8) より算定。

(全国マップ)

図5.水稲の出穂日前後 7 日間の日中(10~15 時)における平均穂温(℃)の推定値の分布 (2018 年)。

1km メッシュの気象分布のデータと穂温モデル 8) により算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得。
穂温の計算には1kmメッシュの気温分布 5)注1)以外にも、風速、日射量、相対湿度などの1kmメッシュの気象分布のデータが必要となる。
過去 25 年間における水稲の出穂日前後 7 日間の日中(10~15 時)における平均穂温(℃)の推定値の分布(1994~2018年)を、参考資料として 図A5 に示した。

(全国メッシュマップ25枚)

図A1.過去25年間における日中の高温指標 HD_x35 (℃×day) の分布(1994~2018年)

図A1 高解像度ファイル(3200px×2400px、0.3MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A2.過去25年間における夜間の高温指標 HD_n25 (℃×day) の分布(1994~2018年)

図A2 高解像度ファイル(3200px×2400px、0.4MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A3.過去25年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温分布(1994~2018年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。

図A3 高解像度ファイル(3200px×2400px、0.8MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A4.過去25年間における水稲の出穂日から20日間の暑熱指数 HD_m26(℃×day)の分布(1994~2018年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。

図A4 高解像度ファイル(3200px×2400px、0.6MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A5.過去25年間における水稲の出穂日前後7日間の日中(10~15時)における平均穂温(℃)の推定値の分布(1994~2018年)

穂温モデル 8) により算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。

図A5 高解像度ファイル(3200px×2400px、0.7MB)

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