国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

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研究資料
令和2年3月23日
農研機構 農業環境変動研究センター

2019年夏季の農業気象 (高温に関する指標)

はじめに

近年、夏季の高温による農作物の被害が多発しています。ここでは、水稲の生育に影響を与える 2019 年夏季の農業気象の概況を整理しました。具体的には、猛暑日と熱帯夜、ならびに水稲の登熟期間の平均気温の地域的な特徴を示し、気象データに基づく穂温の推定結果についても紹介します。

概要

1.1km メッシュの気温分布 5) (注1) を使用した解析によると、2019 年の猛暑日 (日最高気温 35 ℃以上) の記録回数は、1994 年以降の 26 年間で東日本が 6 番目、西日本が 8 番目の順位でした。一方、熱帯夜 (日最低気温 25 ℃以上) の記録回数は、東日本が 2018 年、2010 年に次ぐ 3 番目、西日本では 5 番目の順位となりました。

2.登熟前半の平均気温が 26 ℃を超えると、品質の低下リスクが増加します。多くの地域で登熟期間が 7 月下旬~ 8 月中旬の高温の発生時期と重なったため、出穂日から 20 日間 (登熟前半) の平均気温が 26 ℃を超える地域は、西日本から東北地方の日本海側まで広く分布し、関東東部、北陸平野部、東海、近畿地方などで 28 ℃以上の高温の地域が認められました。

3.穂温モデルを用いた解析から、8 月前半の穂温が全国的に記録的な高さとなり、近畿から東北地方にかけては猛暑年の 2010 年を上回った可能性が示されました。近年の猛暑年と比較して、北陸や東北地方などの比較的緯度が高い地域で、出穂日前後 7 日間の日中の推定穂温が高くなっていました。

(注1) アメダス地点の日最高気温と日最低気温の定義は年代によって変化し、そのままでは長期の気候変動解析には利用できません。本解析では、時別の気温観測データを用いて各地点の日平均/日最高/日最低気温を算定し、それらのデータに基づき長期解析用の 1km メッシュの気温分布を算定しました。前年度までに公表した資料 (「2013年夏季の農業気象」から「2018年度夏季の農業気象」まで) でも、同様な方法で作成した 1km メッシュの気温分布を利用しています。

内容

1.猛暑日と熱帯夜

2019 年の猛暑日 (日最高気温 35 ℃以上) の記録回数は、夏季の高温化が顕著になった 1994 年以降の過去 26 年間で、東日本が 6 番目、西日本が 8 番目の順位でした (図1) 。また熱帯夜 (日最低気温 25 ℃以上) の記録回数は、東日本が 2018 年、2010 年に次ぐ 3 番目、西日本では 5 番目の順位となりました (図1)。猛暑日と熱帯夜の記録日数は過去 42 年間 (1978 年以降) で増加傾向にあり、東日本では猛暑日と熱帯夜とも 2018 年が最多、西日本では猛暑日が 1994 年、熱帯夜は 2010 年がそれぞれ最多となっています (図1)。2019 年は、6 月中旬から 7 月中旬までは梅雨前線やオホーツク海高気圧の影響により、北日本を除いて低めの気温でしたが、梅雨明け以降の 7 月下旬~ 8 月中旬にかけては、北日本と東日本を中心に激しい暑さとなり、全国的に平年よりかなり高めの気温となりました 3)。とりわけ 8 月 14~15 日には台風第 10 号によるフェーン現象の影響で、新潟県や山形県、石川県などの 6 か所の観測地点で日最高気温が 40 ℃以上の日最高気温を記録しました 3)。8 月後半はオホーツク海高気圧や冷涼な空気の影響を受けて、西日本から北日本にかけて気温が平年を下回りました 3)

次に猛暑日と熱帯夜の発生程度を表す日中と夜間の高温指標 2) を用いて、気温分布の特徴を調べました (図2)。2019 年は、埼玉県から群馬・栃木県南部にかけての関東内陸と、東海地方の平野部に猛暑日の発生程度が高い地域が見られましたが、2010 年や 2018年 7) などの猛暑年に比べると空間的な広がりは限定されていました (図2図A1)。また熱帯夜の発生程度が高い地域は、関東南部、東海、近畿、九州北西部の平野部と、瀬戸内沿岸や北陸地方の一部に分布し、2010 年や 2018 年 7) などの猛暑年の分布パターンと類似していました (図2図A2)。

2.登熟期間の平均気温と暑熱指数

出穂日から 20 日間 (登熟前半) の平均気温が 26 ℃を超えると、水稲の白未熟粒の発生が増大し、品質の低下リスクが生じるとされています 8)。2019 年はそのような地域が、西日本から東北地方の日本海側まで広く分布し、関東東部、北陸平野部、東海ならび近畿地方などでは 28 ℃以上の高温の地域も認められました (図3)。2019 年は 2010 年や 2013 年 6)、2018 年 7) などの近年の猛暑年と比較すると猛暑日や熱帯夜の記録回数や発生程度は少なかったものの (図1図2図A1図A2)、九州以外の多くの地域では登熟期間が高温の発生時期と一致したために、この期間の平均気温がこれら猛暑年と同程度またはそれ以上に高くなりました。出穂日から 20 日間の平均気温が 26 ℃を超える地域は、この期間の暑熱指数 HD_m26 が高い地域とほぼ対応し、平均気温が 28 ℃を超える地域での HD_m26 は、40 ℃×day 以上となっています (図3)。

3.日中における推定穂温

2018 年は 7 月中~下旬が猛暑のため、この時期 (7/11 - 28) の開花時刻 (10~12時) における推定穂温は全国的に記録的な高さでしたが、2019 年は梅雨明けが遅く、この時期の推定穂温は平年並みにとどまりました (図4)。一方で 8 月前半 (7/29 - 8/15) における推定穂温は、全国的に記録的な高さとなり、近畿から東北地方にかけては猛暑年の 2010 年を上回りました (図4)。8 月後半 (8/16 - 9/2) には、2018 年と同様に平年値レベルまでに低下し、九州北部や山陰地方では平年値を大きく下回りました (図4)。

出穂日前後 7 日間の日中 (10~15 時) における平均穂温の推定値の分布を見ると、関東北東部、北陸、東北地方 (北部太平洋側は除く)、東海地方と四国の一部、近畿以西の日本海側 (九州は除く) を中心に、33 ℃以上の高穂温の地域が認められます (図5)。2010 年や 2013 年 6)、2018 年 7) など近年の猛暑年と比較して、北陸や東北地方などの比較的緯度が高い地域で平均穂温が高くなったことが特徴的でした (図5図A5)。

引用文献

1) Ishigooka Y., Fukui S., Hasegawa T., Kuwagata T., Nishimori M., and Kondo M. (2017) Large-scale evaluation of the effects of adaptation to climate change by shifting transplanting date on rice production and quality in Japan, J. Agric. Meteorol., 73(4): 156-173.

2) Ishigooka Y., Kuwagata T., Mishimori M., Hasegawa T., and Ohno H. (2011) Spatial characterization of recent hot summers in Japan with agro-climatic indices related to rice production, J. Agric. Meteorol., 67(4): 209-224.

3) 気象庁 (2019) 夏 (6~8月) の天候. http://www.jma.go.jp/jma/press/1909/02b/tenko190608.html

4) Kuwagata T., Yoshimoto M., Ishigooka Y., Hasegawa T., Utsumi M., Nishimori M. Masaki Y., and Saito O. (2011) MeteoCrop DB: an agro-meteorological database coupled with crop models for studying climate change impacts on rice in Japan, J. Agric. Meteorol., 67(4): 297-306.

5) 清野 豁 (1993) アメダスデータのメッシュ化について.農業気象,48(4): 379-383.

6) 農研機構 農業環境変動研究センター (2014) 2013年夏季の農業気象 (高温に関する指標) .研究資料,http://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/agromet/2013.html

7) 農研機構 農業環境変動研究センター (2019) 2018年夏季の農業気象 (高温に関する指標) .研究資料,http://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/agromet/2018.html

8) 森田 敏 (2008) イネの高温登熟障害の克服に向けて.日本作物学会紀事, 77(1): 1-12.

9) Yoshimoto, M., Fukuoka M., Hasegawa T., Utsumi M., Ishigooka Y., and Kuwagata T. (2011) Integrated micrometeorology model for panicle and canopy temperature (IM2PACT) for rice heat stress studies under climate change, J. Agric. Meteorol., 67(4): 233-247.

担当研究者

農研機構 農業環境変動研究センター 気候変動対応研究領域

桑形 恒男
石郷岡康史
吉本真由美
西森 基貴

農研機構 東北農業研究センター 生産環境研究領域

長谷川利拡

問い合わせ先

代表研究者:

農研機構 農業環境変動研究センター 気候変動対応研究領域

作物温暖化応答ユニット長  桑形 恒男
TEL 029-838-8202

広報担当者:

農研機構 農業環境変動研究センター

研究推進室 (広報専門役)  大浦 典子
TEL 029-838-8191
電子メール niaes_kouhou@ml.affrc.go.jp

日最高気温が35度以上になった回数と日最低気温が25℃以上になった回数を東日本と西日本に分けて表示 (グラフ)

図1.日最高気温が 35 ℃以上になった回数 (左図) と日最低気温が 25 ℃以上になった回数 (右図) の年々変化 ( 1978 - 2019 年の過去 42 年間)

1981 - 2000 年の 20 年平均値を 100 とした時の相対値。1km メッシュの気温分布 5) (長期の気候変動解析用(注1) )に基づき算定。ここで、東日本は中部地方より東の地域に対応し、西日本は近畿地方より西の地域が対応する (ただし北海道と沖縄は含まず) 。

(全国マップ)
(全国マップ)

図2.日中の高温指標 HD_x35 (℃×day) (上図) と夜間の高温指標 HD_n25 (℃×day) (下図) の分布 (2019 年)

1kmメッシュの気温分布 5) (注1) に基づき算定。

2つの高温指標は次式で定義され 2)、それぞれ猛暑日と熱帯夜の発生程度を表している。

HD_x35 (℃×day) = ∑[max(Tmax-35, 0)]

:日最高気温 Tmax が 35 ℃以上の日 (猛暑日) の気温超過量を毎日積算する。

HD_n25 (℃×day) = ∑[max(Tmin-25, 0)]

:日最低気温 Tmin が 25 ℃以上の日 (熱帯夜) の気温超過量を毎日積算する。

過去 42 年間における日中と夜間の高温指標の分布 (1978~2019年) を、参考資料として 図A1 および 図A2 に示した。

(全国マップ)
(全国マップ)

図3.水稲の出穂日から 20 日間の平均気温 (上図) と暑熱指数 HD_m26 (℃×day) (下図) の分布 (2019年)

1kmメッシュの気温分布 5) (注1) に基づき算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得。

水稲の出穂日から 20 日間の暑熱指数 HD_m26 は次式で定義され 1) 2)、この値がおよそ 20 (℃×day) を越えると、品質低下のリスクが増すとされる。

HD_m26 (℃×day) = ∑[max(T-26, 0)]

(出穂日から 20 日間の期間で日平均気温 T を積算)

過去 42 年間における水稲の出穂日から 20 日間の平均気温と暑熱指数 HD_m26 の分布 (1978~2019年) を、参考資料として 図A3 および 図A4 に示した。

48の気象台 (旭川、札幌、・・・、鹿児島、宮崎) の気象データをもとにしたグラフ

図4.7月中~後半 (7/11-28)、8月前半 (7/29-8/15) ならびに 8月後半 (8/16-9/2) における、全国各地の開花時刻 (10~12 時) の平均穂温の推定値の分布

出穂・開花期においては、10~12 時は開花時刻にほぼ対応する。エラーバーは日々の標準偏差を示す。
2019 年と 2010、2018 年の結果、ならびに 1981 - 2010 年の 30 年間の平均値。「モデル結合型作物気象データベース」 (MeteoCropDB) 4) で提供される各気象台地点の気象データと穂温モデル 9) より算定。

(注2)本年度より「若松」の表示位置を変更したので、注意が必要である。

(全国マップ)

図5.水稲の出穂日前後 7 日間の日中 (10~15 時) における平均穂温 (℃) の推定値の分布 (2019年)。

1km メッシュの気象分布のデータと穂温モデル 9) により算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得。
穂温の計算には1kmメッシュの気温分布 5)(注1) 以外にも、風速、日射量、相対湿度などの 1km メッシュの気象分布のデータが必要となる。
過去 42 年間における水稲の出穂日前後 7 日間の日中 (10~15 時) における平均穂温 (℃) の推定値の分布 (1978~2019年) を、参考資料として 図A5 に示した。

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A1.過去42年間における日中の高温指標 HD_x35 (℃×day) の分布 (1978~2019年)

[ 図A1 高解像度ファイル (1978~2002年) (3200px×2400px、0.3MB) ]
[ 図A1 高解像度ファイル (2003~2019年) (3200px×2400px、0.3MB) ]

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A2.過去42年間における夜間の高温指標 HD_n25 (℃×day) の分布 (1978~2019年)

[ 図A2 高解像度ファイル (1978~2002年) (3200px×2400px、0.4MB) ]
[ 図A2 高解像度ファイル (2003~2019年) (3200px×2400px、0.4MB) ]

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A3.過去42年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温分布 (1978~2019年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。

[ 図A2 高解像度ファイル (1978~2002年) (3200px×2400px、2.3MB) ]
[ 図A2 高解像度ファイル (2003~2019年) (3200px×2400px、1.9MB) ]

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A4.過去42年間における水稲の出穂日から20日間の暑熱指数 HD_m26 (℃×day) の分布 (1978~2019年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。

[ 図A2 高解像度ファイル (1978~2002年) (3200px×2400px、2.2MB) ]
[ 図A2 高解像度ファイル (2003~2019年) (3200px×2400px、1.9MB) ]

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A5.過去42年間における水稲の出穂日前後7日間の日中 (10~15時) における平均穂温 (℃) の推定値の分布 (1978~2019年)

穂温モデル 9) により算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。

[ 図A2 高解像度ファイル (1978~2002年) (3200px×2400px、2.3MB) ]
[ 図A2 高解像度ファイル (2003~2019年) (3200px×2400px、1.9MB) ]

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