農研機構 > 農業環境研究部門 > 夏季の農業気象(高温に関する指標)
世界気象機関(WMO)によれば、2024年の世界の年平均気温は、産業革命以前の水準(1850~1900年の平均)より約1.55℃高くなり、過去175年間で最も温暖な年になりました。過去10年間の年平均気温はすべてトップ10に入っていて、記録的な高温が続いています14)。
日本では、気象庁による気候変動の監視地点(15地点)による2024年の年平均気温の基準値(1991~2020年の30年平均値)からの偏差が+1.48℃となり、これまでの最高値であった2023年の偏差+1.29℃を上回り、1898年の統計開始以降で最も高い値となりました6)。また夏(6~8月)の平均気温は、これまでで最も高かった2023年と同じ偏差(+1.76℃)となり、農作物に大きな影響を与えました。ここでは、水稲の生育に影響を与える2024年夏季の農業気象の概況を整理しました。具体的には、猛暑日と熱帯夜、ならびに水稲の登熟期間の平均気温の地域的な特徴を示し、気象データに基づく穂温の推定結果についても紹介します。
1.1kmメッシュの気温分布13)(注1)を使用した解析によると、2024年の猛暑日(日最高気温35℃以上)と熱帯夜(日最低気温25℃以上)の記録回数は、1978年以降の47年間で東日本ならびに西日本とも、いずれも1番目(過去最多)の順位となり、記録的な猛暑であった2023年を上回りました。
2.登熟前半の平均気温が26℃を超えると、品質の低下リスクが増加します。2024年は出穂日(注2)から20日間(登熟前半)の平均気温が 26℃を超える地域が、北日本の一部を除く全国に分布し、関東以南の標高が低い平坦地の広範な地域で、28℃以上の高温となりました。
3.穂温モデルを用いた解析から、関東・東海および西日本を中心に、夏季全体を通して穂温が平年値よりかなり高く推移した可能性が示されました。7月下旬~8月上旬は、東海、中国、四国、九州で記録的に高い穂温となり、8月中~下旬は、全国的に2010年の猛暑に匹敵する高い穂温となったことが推定されました。
(注1) アメダス地点の日最高気温と日最低気温の定義は年代によって変化し、そのままでは長期の気候変動解析には利用できません。本解析では、時別の気温観測データを用いて各地点の日平均/日最高/日最低気温を算定し、それらデータに基づき長期解析用の1kmメッシュの気温分布を算定しました。前年度までに公表した資料(「2013年夏季の農業気象」9)から「2023年度夏季の農業気象」11)まで)でも、同様な方法で作成した1kmメッシュの気温分布を利用しています。
(注2) 2024年より、作柄表示地帯別の出穂日が農林水産省から発表されなくなりました。そのため本報告における2024年の解析では、2024年と同様に記録的な猛暑であった2023年の作柄表示地帯別の出穂日(農林水産省統計資料)を用いて、出穂日から20日間の平均気温と暑熱指数(図3)、ならびに出穂日前後における日中の平均穂温(図5)を算定しました。
2024年の猛暑日(日最高気温35℃以上)と熱帯夜(日最低気温25℃以上)の記録回数は、1978年以降の47年間で東日本ならびに西日本とも、いずれも1番目(過去最多)の順位となりました(図1)。猛暑日と熱帯夜の記録回数は過去47年間で増加傾向にあり、いずれの回数とも東日本と西日本の両地域で、過去の記録を塗り替えました。東日本での猛暑日・熱帯夜の記録回数は、いずれも2023年の記録回数をわずかに上回り、西日本では1994年の猛暑以来、31年ぶりに猛暑日の記録回数1位の記録を更新しました。気象庁の統計によると、2024年夏(6~8月)の平均気温は、1946年の統計開始以降、関東甲信・北陸・東海地方では1位タイ(平年差+1.7℃)、近畿・中国・四国・九州地方では1位(平年差+1.4℃)の記録な高温となりました4)。北日本(東北、北海道)では、これまでで最も高温であった2023年の夏(平年差3.0℃)に引き続き、歴代2位の高温(平年差+2.3℃)でした4) 3)。2024年は全国153の地上気象観測地点(気象台等)のうち80地点で、夏の平均気温が歴代1位の高温を記録しました(1位タイ記録であった21地点を含む)4)。
次に猛暑日と熱帯夜の発生程度を表す日中と夜間の高温指標2)を用いて、気温分布の特徴を調べました (図2)。猛暑日の発生程度が高い地域は埼玉県から群馬・栃木県南部にかけての関東内陸と、山梨県、東海、近畿地方の平野部に広く分布し、2023年とは異なり徳島県(四国)や九州北部の平野部にも広がっていました(図2)。2023年は新潟県の平野部に猛暑日の発生程度が高い地域が広がっていましたが11)、2024年はそのような特徴は見られませんでした。また熱帯夜の発生程度が高い地域は、関東南部、東海、近畿、九州の平野部と、瀬戸内沿岸や北陸地方の一部に分布していました (図2)。その分布パターンは、2010年や2018年10)の猛暑年と類似し、とりわけ九州における熱帯夜の発生程度が高い地域の広がりは、過去に例を見ないほど広範囲でした(図A2)。
出穂日から20日間(登熟前半)の平均気温が26℃を超えると、水稲の白未熟粒の発生が増大し、品質の低下リスクが生じるとされています8)。2024年はそのような地域が、青森県を除く東北地方以南の地域に広く分布し、関東地方以西の標高が低い平坦地では、広範囲で28℃以上の高温となりました(図3)。出穂日から 20日間の平均気温が 26℃を超える地域は、この期間の暑熱指数HD_m26が高い地域にほぼ対応し、平均気温が 28℃を超える地域でのHD_m26は、概ね40℃×day以上となっています(図3)。出穂日から20日間の平均気温と暑熱指数HD_m26が高い地域は、両者の指標が高い地域がこれまでで最も広範囲に分布した2023年11)と比較すると、東北地方や北陸地方での広がりが少なかった一方で、東海地方以西の地域での広がりの程度が2023年より大きくなっていました(図3、図A3、図A4)。なお、ここで使用した出穂日は2023年の農林水産省統計資料に基づくもので(注2)、作柄表示地帯別に与えています。
高温不稔は温暖化によって増加が懸念される水稲の高温障害の一つであり、出穂・開花時の穂温が高温になると高温不稔発生のリスクが増加します16)。2024年の推定穂温は、記録的猛暑となった2023年と同様、夏季全体にわたり、全国的に平年値よりかなり高く推移しました。2023年は東北・北陸地方での高温が顕著でしたが、2024年は関東・東海および西日本で顕著な高温となりました。時期別にみると、7月下旬~8月上旬は、東海、中国、四国、九州で記録的に高い穂温であったことが推定されました(図4上段)。また8月中~下旬には、全国的に2010年の猛暑(北陸等で一等米比率の低下が問題となった年)に匹敵する高い穂温となったことが推定されました(図4下段)。
出穂日前後7日間と前後5日間の日中(10~15時)における平均穂温の推定値の分布を見ると、関東(埼玉、茨城、栃木県)、東海地方、ならびに近畿以西の標高が低い地域において、33℃以上の高穂温の領域が認められます (図5)。一方、北陸や東北地方においては、2023年11)に見られたような33℃以上の高穂温の地域がほとんど認められませんでした (図5、図A5、図A6)。
2024年の日本列島の夏季6~8月の平均気温の平年値からの偏差は、沖縄・奄美が+0.9℃(+0.1℃)、近畿・中国・四国・九州地方(西日本)が+1.4℃(+0.9℃)、関東甲信・北陸・東海地方が+1.7℃(+1.7℃)、東北・北海道(北日本)が+2.3℃(+3.0℃)となりました4)(カッコ内は2023年の偏差3))。平年値からの偏差(平年差)は緯度が高い地域ほど大きくなっていますが、緯度による平年差の違いは、同様に記録的な猛暑年であった2023年に比べて縮小しています。地点別に見ると、高知(四国地方)で+1.2℃(+0.3℃)、館野(関東地方)で+2.2℃(+2.2℃)、新潟(北陸地方)で+1.4℃(+2.3℃)、秋田(東北地方)で+1.8℃(+2.7℃)の平年差となりました4)(カッコ内は2023年の平年差3))。
2024年6~9月の気温の推移を、平年値ならびに近年の猛暑年(2010、2018、2019、2023年)と比較しました(図6)。2023年と同様に、2024年は6月から9月までの長期にわたって平年より高い気温が継続しました。北日本や北陸地方では、2023年の8月に顕著な高温を記録しましたが11)、2024年の8月はそこまでの高温とはならず、新潟(北陸地方)では8月上旬に日最高気温が平年値を下回る時期もありました。一方、西日本では7月下旬から8月中旬にかけての気温が2023年に比べてかなり高く、高知(四国地方)ではその期間の平均気温が平年値より2℃以上高くなりました。
農研機構 農業環境研究部門 気候変動適応策研究領域
桑形恒男
石郷岡康史
吉本真由美
西森基貴
滝本貴弘
農研機構 農業環境研究部門
長谷川利拡
1978年以降の各年における夏季の高温指標に関する画像データ (PSファイル) を提供します。詳細はこちらをご覧ください。
2013年から2023年までの過去記事はこちらより参照できます
研究担当者:
農研機構 農業環境研究部門 エグゼクティブリサーチャー
長谷川利拡
thase@affrc.go.jp
広報担当者:
農研機構 農業環境研究部門 研究推進室 (兼本部広報部)
杉山 恵
niaes_kouhou@ml.affrc.go.jp
図1.日最高気温が35℃以上になった回数(左図)と日最低気温が25℃以上になった回数(右図)の年々変化(1978-2024年の過去47年間)。
1981-2000年の20年平均値を100とした時の相対値。1kmメッシュの気温分布13)(長期の気候変動解析用 (注1))に基づき算定。ここで、東日本は中部地方より東の地域に対応し、西日本は近畿地方より西の地域が対応する(ただし北海道と沖縄は含まず)。
図2.日中の高温指標HD_x35(℃×day)(上図)と夜間の高温指標HD_n25(℃×day)(下図)の分布(2024年)
2つの高温指標は次式で定義され2)、それぞれ猛暑日と熱帯夜の発生程度を表している。
HD_x35(℃×day)= ∑[max(Tmax-35, 0)]
:日最高気温Tmaxが35℃以上の日(猛暑日)の気温超過量を毎日積算する。
HD_n25(℃×day)= ∑[max(Tmin-25, 0)]
:日最低気温Tminが25℃以上の日(熱帯夜)の気温超過量を毎日積算する。
過去47年間における日中と夜間の高温指標の分布(1979~2024年)を、参考資料として図A1および図A2に示した。
図3.水稲の出穂日から20日間の平均気温 (上図) と暑熱指数 HD_m26 (℃×day) (下図) の分布(2024年)
1kmメッシュの気温分布13) (注1) に基づき算定。2023年の農林水産省統計資料に基づく、作柄表示地帯別の出穂日 (注2) を使用。2006年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。
水稲の出穂日から20日間の暑熱指数HD_m26は次式で定義され1) 2)、この値がおよそ20(℃×day)を越えると、品質低下のリスクが増すことが示されている12)。
HD_m26(℃×day)= ∑[max(T-26, 0)]
(出穂日から20日間の期間で、日平均気温が26℃以上の日の気温超過量Tを積算。)
過去47年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温と暑熱指数HD_m26の分布(1978~2024年)を、参考資料として図A3および図A4に示した。2024年以外の年は、該当年の農林水産省統計資料に基づく、作柄表示地帯別の出穂日を使用している。
図4.7月下旬~8月上旬(7/23-8/11)ならびに8月中~下旬(8/12-31)における、全国各地の開花時刻(10~12時)の平均穂温の推定値の分布。
出穂・開花期においては、10~12時は開花時刻にほぼ対応する。エラーバーは日々の標準偏差を示す。
2024年と2023、2010年の結果、ならびに1991-2020年の30年間の平均値。「モデル結合型作物気象データベース」(MeteoCropDB)7)で提供される全国の気象台48地点の気象データと穂温モデル15)より算定。
図5.水稲の出穂日前後7日間(上図)ならびに出穂日前後5日間(下図)の日中(10~15時)における平均穂温 (℃) の推定値の分布(2024年)。
1kmメッシュの気象分布のデータと穂温モデル15)により算定。2023年の農林水産省統計資料に基づく、作柄表示地帯別の出穂日 (注2) を使用。穂温の計算には1kmメッシュの気温分布*4) (注1) 以外にも、風速、日射量、相対湿度などの1kmメッシュの気象分布のデータが必要となる。2006年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。
これまでの現地調査によって、出穂日前後5日間の日中(10~15時)の推定穂温は、高温不稔の発生率との関係性が高いことが確認されている16)。ここでは出穂日の地域的なばらつきを考慮して、出穂日前後7日間の日中(10~15時)の推定穂温の分布も掲載している。
過去47年間における水稲の出穂日前後7日間と出穂日前後5日間の日中(10~15時)における平均穂温(℃)の推定値の分布(1979~2023年)を、参考資料として図A5および図A6に示した。2024年以外の年は、該当年の農林水産省統計資料に基づく、作柄表示地帯別の出穂日を使用している。
図6a.秋田(東北地方)における日平均/日最高/日最低気温(7日間移動平均)の季節内変化(6~9月)。
2024年に加えて、近年の猛暑年2010、2018、2019、2023年ならびに日別平年値(1991~2020年)のデータも表示した。各年のデータは、「モデル結合型作物気象データベース」(MeteoCropDB)7)より入手。日別平年値は気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php、過去の気象データ検索)より入手。
図6b.新潟(北陸地方)における日平均/日最高/日最低気温(7日間移動平均)の季節内変化(6~9月)。
詳細は図6aと同様。
図6c.館野(関東地方)における日平均/日最高/日最低気温(7日間移動平均)の季節内変化(6~9月)。
詳細は図6aと同様。
図6d.高知(四国地方)における日平均/日最高/日最低気温(7日間移動平均)の季節内変化(6~9月)。
詳細は図6aと同様。
図A1.過去47年間における日中の高温指標 HD_x35 (℃×day) の分布(1978~2024年)
図A2.過去47年間における夜間の高温指標 HD_n25 (℃×day) の分布(1978~2024年)
図A3.過去47年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温分布(1978~2024年)
出穂日は作柄表示地帯別に、該当年の農林水産省統計資料から取得した(2024年のみは2023年の出穂日を使用(注2))。2006年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。
図A4.過去47年間における水稲の出穂日から20日間の暑熱指数 HD_m26 (℃×day) の分布(1978~2024年)
出穂日は作柄表示地帯別に、該当年の農林水産省統計資料から取得した(2024年のみは2023年の出穂日を使用(注2))。2006年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。
図A5.過去47年間における水稲の出穂日前後7日間の日中(10~15時)における平均穂温 (℃) の推定値の分布 (1978~2024年)
穂温モデル15)により算定。出穂日は作柄表示地帯別に、該当年の農林水産省統計資料から取得した(2024年のみは2023年の出穂日を使用(注2))。2006年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。
図A6.過去47年間における水稲の出穂日前後5日間の日中(10~15時)における平均穂温 (℃) の推定値の分布 (1978~2024年)
穂温モデル15)により算定。出穂日は作柄表示地帯別に、該当年の農林水産省統計資料から取得した(2024年のみは2023年の出穂日を使用(注2))。2006年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。
