黒毛和種,雌,13カ月齢,鑑定殺例.2008年4月16日生まれの育成牛が10カ月齢より食欲不振を示し,治療を行ったが症状は改善せず,5月19日に鑑定殺された. 剖検では,十二指腸の拡張が認められ,後部に小児頭大腫瘤状の硬化病変がみられた.この内腔には消化管内容物を容れ,十二指腸及び空腸の内腔と連続しており,壁の厚さは約2cm程度に肥厚し,著しく硬化していた.内側面は黒色と緑色の部分が混在し,硬度を増していた.本病変と隣接する盲腸には軽度の癒着が認められた. 組織学的に,十二指腸硬化病変(提出標本)の粘膜固有層には中等度の好酸球浸潤が認められ,石灰化を伴う粘膜の壊死が認められる部位もあった.粘膜の壊死巣では中隔を持たず幅が不均一で,垂直に分岐する菌糸がみられ,これらはPAS反応陽性を示した(図15A).粘膜下組織では肉芽腫病変が多発し,周囲には著しい線維増生が認められた(図15B).肉芽腫の中心には時に菌糸が認められ,好酸球,多核巨細胞,マクロファージが浸潤していた.多核巨細胞の細胞質内には菌糸の断片がみられた.壊死巣及び肉芽腫の中心にみられた菌糸は抗 Rhizomucor 抗体(DAKO)を用いた免疫組織化学的検査で陽性を示した. 病原検索では,主要臓器から病原細菌は分離されなかった. 本症例は牛の接合菌症と診断され,十二指腸の肉芽腫が大型腫瘤状硬化病変を形成したものと思われた. |
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