タンチョウ,雌,9歳2カ月齢,死亡例.観賞用に飼育されていたタンチョウが2008年5月初旬から頭部下垂,水浴忌避を呈するようになり,同年8月14日に死亡した. 剖検では,肝臓が顕著に腫大し,腹腔の半分以上を占めていた.肝臓には粟粒大から2〜3cm大の白色腫瘤や血腫様暗赤色腫瘤が密発し,肝表面及び割面は著しく不整であった.他の臓器に肉眼的著変はみられなかった. 組織学的に,肝臓(提出標本)の腫瘤部は,弱好酸性の豊富な細胞質と円形核を有する肝細胞に類似した細胞の不規則な索状配列で構成されており,周辺の肝組織は圧迫されていた(図24).間質は乏しく,細胞や核の大小不同が顕著で,多核細胞も散見された.腫瘍組織と周辺の肝臓組織との境界は不明瞭であり,混在する部位も多くみられた.一部の大型腫瘤は線維性被膜に包まれていたが,被膜上にも腫瘍細胞の浸潤がみられた.腫瘍細胞集塊は肝臓の血管内にも頻繁にみられた.腫瘍組織の周辺ではうっ血が顕著で,化膿壊死巣形成がみられた.肺にも多発性巣状に肝臓と同様の腫瘍組織の結節性増殖がみられた.また,肺では正常組織内に腫瘍細胞小集塊が播種性に散在する像がみられた.腺胃粘膜と盲腸粘膜に出血がみられたが,その他の臓器で腫瘍組織の増殖はみられなかった. 以上の所見から,本症例は組織診断,疾病診断ともにタンチョウの肝細胞癌と診断された. |
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