21 牛の Mycoplasma bovis による化膿性気管支肺炎 〔山口博之(佐賀県)〕

 黒毛和種,去勢,12カ月齢,鑑定殺.肥育牛500頭を飼養する農場で2011年4月11日から発咳,翌22日には左前肢の跛行を示す牛が認められた.25日には起立困難,左前肢球節が腫大し獣医師による治療後起立したが,5月6日には再度起立不能を呈し,31日には予後不良のため鑑定殺し病性鑑定を実施した.

 剖検では,本症例は被毛粗剛を呈し,両前肢手根関節・両後肢膝関節は腫脹し,関節腔には線維素と化膿性滲出物が貯留し,滑膜表面は線維素の析出により絨毛状を呈していた.浅頸リンパ節,内腸骨リンパ節が腫脹し,肝臓では軽度の褪色,左胸腔内に線維素の析出,左肺には化膿巣が多数認められた.

 組織学的には,肺では,大小の多発性凝固壊死が広範に認められ,周囲に好中球,マクロファージ,リンパ球及び多核巨細胞の浸潤を伴う肉芽組織が認められた(図21).壊死巣中心部には石灰沈着がみられた.壊死病巣によって圧排され,狭小化した肺胞には軽度のマクロファージ,リンパ球が浸潤し,硝子様血栓が散在していた.肝臓では,軽度の好中球浸潤を伴う壊死巣が散在していた.関節にも壊死巣が散在し,周囲にマクロファージ,リンパ球及び多核巨細胞が認められ,好中球浸潤巣も散在していた.抗 Mycoplasma bovis 家兎血清(動衛研)を用いた免疫組織化学染色では,肺及び関節の壊死巣に一致して陽性反応が多数確認された.

 細菌検査では, M. bovis が肺(>1.0×106ccu/g),後肢関節スワブ(1.0×104ccu/g),関節液(10ccu/g)から分離された.結核は否定された.ウイルス分離成績は陰性だった.肺,肝臓を用いた牛伝染性鼻気管炎ウイルス,牛パラインフルエンザウイルス3型,牛アデノウイルス7型,牛RSウイルス,牛ウイルス性下痢ウイルスに対するPCR検査では,特異遺伝子は検出されなかった.

 本症例は, M. bovis による化膿性気管支肺炎及び多発性関節炎と診断された.

牛のMycoplasma bovisによる化膿性気管支肺炎