36 牛のジクマロールによる第一胃の筋層から漿膜の血管変性壊死を伴う漿膜のび漫性出血 〔小川秀治(秋田県)〕

 黒毛和種,8歳,斃死例.2010年8月下旬から9月上旬にかけて,成牛19頭,育成子牛11頭を飼養する1農場において成牛7頭の急死が続発した.立入検査時に食欲不振,可視粘膜軽度貧血し,左側臀部から陰部に腫瘤がみられていた成牛がその6日後に斃死したため病性鑑定を行った.当該農家では市販濃厚飼料,桑の葉と自家産乾草(オーチャードグラス)を給与していた.

 剖検では,左臀部に顕著な皮下血腫が認められ,腹腔内には多量の血様腹水の貯留,第一胃漿膜面に顕著な出血が認められた.

 組織学的に,第一胃において粘膜下組織から漿膜にかけて出血が認められ,特に筋層と漿膜に顕著な層状又はび漫性の出血がみられた(図36).出血部には好中球浸潤,線維素,線維芽細胞の増生,重度の水腫がみられ,中小血管では内皮の腫大,筋層の硝子化,線維化などの変性及び壊死が認められた.肝臓では小葉中心性の空胞化や,肝細胞核濃縮がみられた.骨格筋では筋膜に層状出血,血管変性及び単核細胞浸潤,線維素析出,線維芽細胞の増生がみられた.小腸及び腸間膜では漿膜の層状の出血と水腫,線維素析出,炎症性細胞の浸潤がみられ,出血部では血管変性が著明に認められた.

 給与飼料,水,胃内容から亜硝酸,硝酸,有機リンは検出されなかった.HPLC法で肝臓からジクマロールが検出された.クマテトラリル,ブロマジオロンは検出されなかった.ウイルス学的検査及び細菌学的検査では病原体は分離されなかった.

 本症例は斃死した3頭の肝臓からジクマロールが検出されたため牛のジクマロール中毒と考えられた.

牛のジクマロールによる第一胃の筋層から漿膜の血管変性壊死を伴う漿膜のび漫性出血