45 リンパ腫のコアラにみられた Aspergillus fumigatus による壊死性肺炎と Streptococcus gallolyticus による多発性菌栓塞 〔油井 武(埼玉県)〕

 コアラ,雌,106カ月齢,斃死例.2010年12月5日,埼玉県内の動物園で飼育されていたコアラ1頭に元気消失,跛行及び振戦がみられた.血液検査で総白血球数24,500/μlのうち,リンパ球の増加(98%)が認められた.リンパ腫を疑い,ステロイド剤を継続的に投与されていたが,同年1月24日に斃死した.

 病理解剖では,肺の右前葉と右後葉に直径約0.5〜1.0cm大の結節がみられ,結節の割面は灰白色スポンジ状を呈していた.その他の臓器に著変は認められなかった.

 組織学的には,肺で明瞭な隔壁とY字分岐を特徴とした真菌を伴う凝固壊死が認められた(図45A).気管支腔には,分生子,頂嚢,フィアライド及び分生子柄も認められた(図45B).これらの構造はグロコット染色,PAS反応陽性で,真菌の構造はより明瞭に観察された.真菌はマウス抗 Aspergillus spp.抗体(DAKO)を用いた免疫組織化学的染色で陽性反応を示した.全身の諸臓器の血管内にも同様の真菌が多数認められた.一方,肺胞毛細血管内にグラム陽性球菌による菌栓塞が多数認められた.その他,肝臓,腎臓,胃,空腸,回腸,盲腸及びリンパ節で腫瘍性リンパ球増殖が観察された.

 病原検査において,肺のパラフィンブロックを用いて,β-tubulin遺伝子断片の塩基配列を決定したところ,既報の A. fumigatus と同一の系統内であった.さらに,肝臓,脾臓,腎臓,心臓及び脳から分離されたグラム陽性球菌は,16S rRNA遺伝子解析により, Streptococcus gallolyticus と100%の相同性を示した.

 以上から,本症例はリンパ腫のコアラにみられた肺アスペルギルス症と S. gallolyicus 感染症と診断された.アスペルギルス症の要因として,リンパ腫とステロイド剤の投与による免疫不全が考えられた.

リンパ腫のコアラにみられたAspergillus fumigatusによる壊死性肺炎とStreptococcus gallolyticusによる多発性菌栓塞