家畜伝染病

狂犬病(rabies)

牛鹿馬めん羊山羊豚家きんその他家きんみつばちその他家畜
対象家畜:牛、水牛、鹿、馬、めん羊、山羊、豚、いのしし

1.原因

 

 Mononegavirales(目)Rhabdoviridae(科) Lyssavirus(属)Rabies virus(genotype 1)が原因であり、本ウイルスは一本鎖のマイナスRNAウイルスで、形態は砲弾型をしており、大きさは約75×180nm、エンベロープを保有する。Lyssavirus(属)では7つのgenotypeがあり、殆どのものが狂犬病と似た脳炎を示す。

 

 

2.疫学

 

 日本、オーストラリア、ニュージーランド、英国(グレート・ブリテンおよび北アイルランド)、アイスランド、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、フィジー諸島、ハワイおよびグアム、台湾の国および地域を除く殆どの国および地域に発生があり、特にメキシコ、エルサルバドル、グアテマラ、ペルー、コロンビア、エクアドルなどの中南米、インド、ネパール、スリランカ、タイ、ベトナム、フィリピンなどのアジアで流行している。インドだけでも毎年約3万人が、全世界では毎年約5万人が犠牲になっている。さらに、近年中国では大規模な流行が報告されており、毎年約2500人が犠牲になっている。日本は1923〜1925年には約9000頭の発生があったが1950年の狂犬病予防法施行以後はイヌのワクチン接種が義務づけられ、1957年以降発生はない。しかし、その後も海外で感染し日本で発症した例があり、それらは1970年ネパールでイヌに咬まれ感染後帰国した1人、2006年フィリピンでイヌに咬まれ感染後帰国した2人である。感染源は東南アジアが主にイヌ、中南米が吸血コウモリ、ヨーロッパがキツネ、北米がアライグマ、スカンク、コウモリなど、アフリカがイヌ、ジャッカル、マングースなどである。多くはウイルスに感染した動物に咬まれることで伝播する。ウイルスが末梢神経、中枢神経と上行し、増殖を繰り返しながら各神経組織に拡散する。また、唾液腺でも多量に増殖し、咬まれた傷から唾液のウイルスが侵入することで感染する。

 

 

3.臨床症状

 

 潜伏期は多くは1〜2ヶ月であるが、ウイルスの神経上行速度は1日あたり数ミリから数十ミリとされることから、咬傷の場所が中枢神経組織に近いほど潜伏期は短くなる。その範囲は2週間から数ヶ月と広い。発症すると動物ではその症状によって狂躁型と麻痺型に分けられる。狂躁型はイヌ、ブタ、ウマなどで比較的多く、非常に過敏になり、興奮性の神経症状を伴い、辺り構わず 咬みつくようになる。さらに数日後には全身麻痺になり呼吸障害により死亡する。麻痺型はウシで多く、麻痺性の神経症状を示し、数日後に呼吸障害で死亡する。人もほぼ同じで、前駆器には発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐などの感冒様症状の他、咬傷部位の疼痛や掻痒、筋の痙攣などを伴い、急性期には神経症状を呈し、狂躁状態、錯乱、幻覚などの症状や恐水症(水の嚥下による筋痙攣)が現れ、その数日後には昏睡期には入り、呼吸困難により死亡する。死亡率は動物および人ともほぼ100%である。

 

 

4.病理学的変化

 

 大脳、小脳およびアンモン角に特徴的な好酸性の封入体(ネグリ小体)が観察されることが多いが、全てではない。

 

 

5.病原学的検査

 

 動物の場合、脳組織を用いた蛍光抗体法を用い、陰性の場合は脳乳剤をマウス脳内接種し、再度蛍光抗体法で診断する。その他、培養細胞を用いた蛍光抗体法、RT-PCRなどがある。人の生前診断では脳組織の代わりに角膜塗沫標本、唾液腺、頸部皮膚などを用いて、同様な検査を行う。

 

 

6.抗体検査

 

 血中抗体の上昇はほとんどないことから用いられない。人の場合は治療に用いたワクチン抗体が上昇することから診断的価値は高い。

 

 

7.予防・治療

 

 動物の場合、予防に不活化ワクチンを用いる。イヌでは狂犬病予防法に基づき、年1回の予防接種が義務づけられている。イヌに用いるワクチンは日本ではHmLu細胞で培養したウイルスの不活化ワクチンを用いている。また、感染が疑われた場合は殺処分する。人の場合、予防のための不活化ワクチンと治療のための不活化ワクチンおよび抗狂犬病免疫グロブリンがある。人に用いるワクチンはニワトリ胚細胞で培養したウイルスの不活化ワクチンを用いている。発生地域に行く場合は必要に応じて接種することができる。また、感染が疑われる動物に咬まれた場合は最初の接種日を0日として3、7、14、30および90日の6回のワクチン接種(暴露後免疫)と初回時の抗狂犬病免疫グロブリン接種が推薦されるが、日本では抗狂犬病免疫グロブリンは未認可のため用いることはできない。開発途上国の一部では現在でもヤギ脳由来のセンブル型ワクチンや乳のみマウス脳由来のフェンザリダ型ワクチンが用いられているが、副反応が強いいことから使用を避けるべきである。発生国ではむやみに動物に近づかないことが最も重要であり、咬まれ場合は充分に水や石けんで洗い、すぐに治療を受けることが重要である。
 汚染国では、羊、山羊、牛に生ワクチンおよび不活化ワクチンがある。清浄国においては、発生国からの家畜の輸入禁止と検疫所における摘発。侵入した場合は早期の摘発淘汰。殺虫剤によるベクターの駆除。

 

 

8.発生情報

 

 監視伝染病の発生状況(農林水産省)

 

 

9.参考情報

 

 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)

 狂犬病について・農林水産省動物検疫所ホームページ

 森山浩光・インドネシアの狂犬病:日本獣医師会雑誌、59、709-714 (2006)

ウシの小脳のプルキンエ細胞にあるネグリ小体
写真1:ウシの小脳のプルキンエ細胞にあるネグリ小体


編集:動物衛生研究部門

(令和3年12月 更新)

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