炭疽(anthrax)
1.原因
原因菌である炭疽菌(Bacillus anthracis)はグラム陽性の大桿菌(1〜1.2×3〜5μm)である。鞭毛を欠き、運動性がない。寒天培地上で辺縁が縮毛状の集落を形成する。芽胞を形成して、熱、乾燥、消毒薬などに強い抵抗性を有する。
2.疫学
環境中で芽胞体として長期間生残し、動物に感染を繰り返す。芽胞体が生体内に侵入すると、発芽し、栄養型として増殖し炭疽を発病する。感染した動物の血液、体液、死体などが地表や体表を汚染し、栄養型は再び芽胞体となり、土壌を汚染する。
3.臨床症状
牛、馬、めん羊、山羊等の感受性の強い動物においては、急性敗血症を呈し急死する。潜伏期は1〜5日と考えられている。症状は体温の上昇、眼結膜の充血、呼吸・脈拍の増数、さらに進み敗血症期に入ると、呼吸困難、時に血色素尿のみられることがあり、経過の早いものでは発症から24時間以内に死亡する。豚などの比較的抵抗性の強い動物では、慢性的な経過をたどる場合が多い。
4.病理学的変化
特徴的病変は、皮下の浮腫、口腔、鼻腔や肛門等の天然孔から凝固不良で暗赤色タール様の出血、脾臓の腫大等があげられる。豚などの比較的抵抗性の強い動物では腸炎型、咽喉部に病変を作るアンギナ型、および急性敗血症型に大別される。
5.病原学的検査
家畜が急死したときには、外見上炭疽死の状態を示していなくても、一応、炭疽を疑う必要がある。その場合、まず血液を採取し、塗抹染色、ファージテスト、アスコリーテスト等による細菌学的検査を実施する。なお、国内の検査に使用されるアスコリーテスト用血清は動物衛生研究所で製造している。
6.抗体検査
ELISA等による抗体検査が可能ではあるが、通常家畜の場合実施しない。
7.予防・治療
無莢膜弱毒変異株の芽胞液が牛および馬用の予防生菌ワクチンとして用いられている。敗血症が進行した段階では、抗生物質投与の効果は期待できない。同居家畜に対して緊急予防的に抗生物質を注射することがある。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
最近の家畜衛生をめぐる情勢について:農林水産省・消費・安全局・動物衛生課(平成23年10月)
写真1:炭疽菌のコロニー | 写真2:培養初期における炭疽菌の実体顕微鏡像 | 写真3:感染マウスの脾臓の塗沫 |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)