ピロプラズマ症(piroplasmosis)
1.原因
原因は胞子虫綱、ピロプラズマ目のバベシア科およびタイレリア科に属する原虫である。監視伝染病の対象となっている病原体は、バベシア・ビゲミナ(Babesia bigemina)、バベシア・ボビス(B. bovis)、タイレリア・パルバ(Theileria parva)、タイレリア・アヌラタ(T. annulata)、バベシア・カバリ(B. caballi)、タイレリア・エクイ(T. equi)である。
2.疫学
バベシア・ビゲミナ、バベシア・ボビスは牛、水牛および鹿に感染し、中南米、東南アジア、アフリカ、豪州に分布、オウシマダニをはじめとするコイタマダニ属のマダニによって媒介される。タイレリア・パルバは牛および水牛に感染し、アフリカに分布、コイタマダニ属のマダニによって媒介される。タイレリア・アヌラタは主として牛に感染し、アフリカ、アジア、欧州に分布、イボマダニ属のマダニによって媒介される。バベシア・カバリ、タイレリア・エクイは馬、ロバなどに感染し、中南米、アジア、アフリカに分布、カクマダニ属などのマダニによって媒介される。
いずれのピロプラズマ症もそれぞれの原虫を媒介するマダニの生息地域に一致して発生する。わが国ではかつて沖縄県が牛のバベシア症の常在地であったが、オウシマダニの撲滅が進められた結果、1993年を最後に発生はない。
3.臨床症状
バベシア・ビゲミナ、バベシア・ボビスは発熱、貧血、黄疸と血色素尿を起こし、若齢牛よりも成牛において致死率が高い。前者によるものはダニ熱(Tick Fever)と呼ばれる。タイレリア・パルバ感染症は東海岸熱(East Coast Fever)と呼ばれ、発熱、リンパ節の腫脹と貧血を起こす。子牛は急性肺水腫のため呼吸困難となり、高い致死率を示す。タイレリア・アヌラタは発熱とリンパ節の腫脹を、バベシア・カバリ、タイレリア・エクイは発熱、貧血、黄疸を起こす。
4.病理学的変化
バベシア・ビゲミナ感染では皮下織や筋肉、結合組織に黄疸、浮腫が認められる。脾臓、肝臓および腎臓は腫大し、胆嚢内には濃緑色泥状胆汁が貯留する。バベシア・ボビス感染ではこれらの変化に加え、実質臓器の毛細血管内に原虫寄生赤血球が集積して機能不全をきたすが、特に大脳皮質において著明であり、赤色化して神経症状を呈する。タイレリア・パルバ感染ではリンパ球の増殖により肺胞が泡沫状分泌物で満たされる。タイレリア・アヌラタ感染ではリンパ節、脾臓および肝臓が腫大する。バベシア・カバリ、タイレリア・エクイ感染では肝臓、腎臓が腫大する。
5.病原学的検査
血液塗抹標本の顕微鏡検査により赤血球内原虫を確認する。子牛のタイレリア・パルバ感染では赤血球内原虫の出現以前に死亡する場合が多いため、耳下腺下または浅頚リンパ節からのシゾント検出を行う。
6.抗体検査
病原体によって間接蛍光抗体法、補体結合反応、酵素抗体法などが実施されている。
7.予防・治療
動物輸入検疫により国内への侵入を防止する。競走馬や興行馬については、海外馬の入国時と国内馬の帰国時に注意が必要である。治療には、バベシア原虫に対してはジアミジン製剤が、タイレリア原虫に対してはテトラサイクリン製剤やナフトキノン製剤が有効である。発生国では媒介ダニ対策がなされ、一部の国では牛への生ワクチン投与が行われている。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)、馬の感染症第4版(JRA総研)
写真 1 バベシア・ビゲミナ |
写真 2 バベシア・ボビス |
写真 3 バベシア・エクイ |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)