家畜伝染病

アフリカ馬疫(African horse sickness)

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対象家畜:

1.原因

 

 アフリカ馬疫ウイルス(African horse sickness virus、AHSV)は、 レオウイルス科(Reoviridae)セドレオウイルス亜科(Sedoreovirinae)オルビウイルス属(Orbivirus)に分類される2本鎖RNAウイルスで、 9種類の血清型の存在が知られる。

 

 

2.疫学

 

 本病の発生は、サハラ砂漠以南に限局しているが、節足動物や感染動物の移動などにより、北アフリカ やイベリア半島、中近東においても過去に発生が報告されている。1959〜1961年には、中近東からインドにかけて大規模な発生があり、30万頭を越える馬が死亡または殺処分された。2020年初頭にはタイで不顕性感染シマウマの輸入が原因とされる東南アジア初の発生が報告された。同年8月にはマレーシアでも発生が確認された。本病は吸血性節足動物(Culicoides属ヌカカ)により媒介されるが、ある種の蚊による媒介の可能性も示唆されている。

 

 

3.臨床症状

 

 ウイルスの病原性と感染歴によって4つの病型に分けられる。

(1)肺型(甚急性)
 強毒株感染馬や初感染馬にみられ、3〜5日の潜伏期の後、高熱、呼吸困難・促迫などを呈し、発作性の咳と泡沫を含む血清様鼻汁を流出して起立不能となり短時間で死亡する。死亡率は95%を越える。
(2)肺型と心臓型の混合型(急性)
 5〜7日の潜伏期を経て発熱、肺炎および浮腫が合併して認められる。発熱後3〜6日で死亡することが多い。馬の他にラバやロバが感染・発症した場合にもしばしばみられる。死亡率は80%に達する。
(3)心臓型(亜急性)
 浮腫・心臓型とも呼ばれる。弱毒株の初感染時あるいは低い抗体価を示す個体の再感染時にみられる。潜伏期は7〜14日で、発熱が3〜6日継続した後、側頭部、眼の周辺から浮腫の発現が始まり、頚部〜腹部に認められるようになる。眼上窩の浮腫は特徴的。末期には眼結膜や舌下部に充血や点状出血がみられる。死亡率は50%程度。
(4)発熱型(一過性)
 免疫獲得馬や先天的に抵抗性のあるロバやシマウマが感染した場合に認められる。5〜14日の潜伏期の後、発熱を呈する。その他の症状はないことも多く、軽度の眼結膜充血や心拍数増加、食欲減退が観察される程度である。常在地で認められる。

 

 

4.病理学的変化

 

 全身性の著しい浮腫病変、胸腔、腹腔、心嚢内への多量の漿液の貯留、肺水腫

 

 

5.病原学的検査

 

 感受性細胞や乳のみマウスの脳内接種によるウイルス分離。ELISA法やRT-PCR法・リアルタイムRT-PCR法による抗原ならびに遺伝子検出。

 

 

6.抗体検査

 

 ELISA法、補体結合反応、赤血球凝集阻止(HI)試験、中和試験、ゲル内沈降反応、蛍光抗体法など。

 

 

7.予防・治療

 

 常在地では弱毒生ワクチンや不活化ワクチン使用が可能である。清浄地域では海外からの侵入の防止と発生した際には早期の摘発・淘汰が重要である。

 

 

8.発生情報

 

 監視伝染病の発生状況(農林水産省)

 

 

9.参考情報

 

 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、馬の感染症第3版(JRA総研)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)

感染死亡馬の胸腔(胸水の顕著な貯留)(原図:JRA総研栃木支所)
写真1:感染死亡馬の胸腔(胸水の顕著な貯留)(原図:JRA総研栃木支所)


編集:動物衛生研究部門

(令和3年12月 更新)

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