低病原性鳥インフルエンザ(low pathogenic avian influenza)
1.原因
家畜伝染病予防法において「H5又はH7亜型のA型インフルエンザウイルス(高病原性鳥インフルエンザウイルスと判定されたものを除く)の感染による家禽(鶏、あひる、うずら、きじ、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥)の疾病」と規定される。A型インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)A型インフルエンザウイルス属(Influenzavirus A)に分類され、ゲノムは一本鎖(-)RNAで、8本の分節からなる。鳥インフルエンザウイルス表面のヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の血清型の組み合わせにより、H1からH16、N1からN9亜型に細分されている。
2.疫学
自然宿主はカモなどの野生水禽類である。ウイルスは感染した鳥類の鼻、口、眼、クロアカから排泄される。感染した鳥類との直接接触、またはウイルスに汚染された排泄物、飼料、粉塵、水、ハエ、野鳥、人、資材、車両等を介して伝播する。
3.臨床症状
最もよくみられる臨床症状は、咳、くしゃみ、喘鳴、流涙など呼吸器症状である。産卵低下やその他の一般的症状(被毛粗剛、沈鬱、元気喪失、食欲減退、下痢など)もみられる。鳥種、日齢、性別、混合感染、免疫、環境要因によって様々な症状を示す。混合感染がない場合の死亡率は5%以下である。
4.病理学的変化
肉眼所見は症状によって多岐にわたり、鳥種、ウイルスの病原性、混合感染の有無等の影響をうける。しばしば呼吸器とくに副鼻腔に病変が認められ、カタル性、線維素性、漿液性線維素性、粘液化膿性、または線維素化膿性炎症を特徴とする。気管粘膜では、充血や出血を伴う浮腫が見られる。産卵鶏では、卵管に炎症性滲出液が見られることがある。
5.病原学的検査
気管スワブおよびクロアカスワブ材料を発育鶏卵の尿膜腔内に接種し、ウイルス分離検査を行う(この際、鳥パラミクソウイルスとの鑑別が必要である)。近年は迅速な診断技術として、同材料からウイルスに特異的な遺伝子を検出するPCRまたはリアルタイムPCR法を用いる。血清学的診断法を用いて分離されたウイルスのHAの亜型は赤血球凝集反応抑制(HI)試験、NAの亜型はノイラミニダーゼ反応抑制(NI)試験により決定する。近年では、HA及びNA遺伝子配列を解読することにより、亜型を決定することもある。病原性は鶏の静脈内接種試験により決定する。市販の抗原検出キット(イムノクロマトグラフィー法)は、主にA型インフルエンザウイルス抗原を検出するものであり、亜型の同定には上記の血清学的診断や亜型特異的な遺伝子検出が必要である。
6.抗体検査
血清を材料に、ウイルスに特異的な抗体をエライザ法または寒天内ゲル内沈降反応により検出する。
7.予防・治療
根本的な予防・治療方法はなく、低病原性鳥インフルエンザウイルスは、伝播力が強いもののほとんど臨床症状を示さず、発見が遅れるおそれがある。また、海外では、家禽の中で維持されることによって高病原性鳥インフルエンザウイルスに変異した事例も確認されている。よって、高病原性鳥インフルエンザと同様に、殺処分および移動・搬出制限によりまん延防止、早期撲滅を図る(移動制限区域の設定等の条件は、高病原性鳥インフルエンザのそれと異なる)。
8.発生情報
日本では、2005年に茨城県および埼玉県の養鶏農家でH5N2亜型、2009年には愛知県の養鶉農家でH7N6亜型のA型インフルエンザウイルスによる低病原性鳥インフルエンザ*がそれぞれ発生したが、感染経路は不明であった。
*2011年4月家畜伝染病予防法の改正に伴い鳥インフルエンザの分類が変更された。2005年及び2009年当時は「高病原性鳥インフルエンザ」として取り扱われていた。
9.参考情報
動物の感染症4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)、家禽疾病学第2版(鶏病研究会)
高病原性鳥インフルエンザおよび低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針、農林水産省
Diseases of Poultry、Y.M. Saif編、Iowa State Press
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)