家畜伝染病

腐蛆病(foul brood)

牛鹿馬めん羊山羊豚家きんその他家きんみつばちその他家畜
対象家畜:蜜蜂

1.原因

 

 腐蛆病はミツバチの蜂児を侵す細菌感染症で、家畜伝染病に指定されている。死んだ幼虫や蛹が腐るという共通の症状のため、法律ではまとめて腐蛆病と呼ばれているが、この病気には「グラム陽性有芽胞桿菌であるアメリカ腐蛆病菌(Paenibacillus larvae:ペニバシラス ラーべ)によるアメリカ腐蛆病」と「グラム陽性槍先状レンサ球菌のヨーロッパ腐蛆病菌(Melissococcus plutonius:メリソコッカス プルトニウス)によるヨーロッパ腐蛆病」の2つの病気が含まれる。

 

 

2.疫学・臨床症状

 

 アメリカ腐蛆病:アメリカ腐蛆病菌の芽胞に汚染された餌をミツバチの幼蛆が摂取して感染する。菌株の遺伝子型や蜂群の状態などにより症状は多様であるが、一般的に蓋をされた巣房の中で幼虫や蛹(有蓋蜂児)が死ぬことが多い。発症蜂群では、巣房の蓋は黒ずみ、張りを失って内側にへこみ、働き蜂に開けられた小孔がみられるようになり、刺激臭(膠臭、納豆臭)が漂うようになる。死んだ幼虫は、次第に茶色〜チョコレート色になり、爪楊枝や綿棒などを差し込むと糸を引いて付いてくる粘稠性のある腐蛆となる。腐蛆は次第に乾燥し、巣房の下面に扁平状に固着したスケイルとなる。蓋をされる前の巣房で若い幼虫が死ぬこともあるが、その場合は働き蜂によって死骸が除去されるため、空の巣房が残る。感染が広がった巣脾では、産卵圏が乱れ、有蓋巣房と無蓋巣房が点在したまだら状の様相を呈する。

 ヨーロッパ腐蛆病:ヨーロッパ腐蛆病菌に汚染された餌をミツバチの幼虫が摂取して感染する。本病は、流密時に多発する傾向がある。菌株の毒力や蜂群の状態等によって多様な症状を示すが、一般的に巣房に蓋をされる前の幼虫(無蓋蜂児)が死ぬことが多い。発症蜂群では、無蓋巣房が有蓋巣房と混ざり合う状態になる。死んだ幼虫は通常は働き蜂によって巣から排除されるが、排除されない場合は、乳酸菌などの二次感染菌の影響で変性・分解され、張りがなくなり、乳白色〜褐色の水っぽい腐蛆となって、酸臭を発することがある。時に有蓋蜂児が主に死んで、アメリカ腐蛆病と似た症状を呈することもあるため、診断には注意を要する。

 

 

3.病原学的検査

 

 アメリカ腐蛆病:腐蛆をニグロシン染色、チール・ネルセンカルボールフクシン染色または墨汁染色して多数ある芽胞を確認するとともに、J寒天培地、MYPGP寒天培地またはコロンビア血液寒天培地を用いて35〜37℃、5〜10%炭酸ガス下で培養してアメリカ腐蛆病菌を分離する。同定はアメリカ腐蛆病菌特異的PCRで行う。雑菌を抑制する目的でナリジクス酸とピペミド酸を、カビを抑制する目的でアムホテリシンBを培地に添加することも有効である。腐蛆の乳剤から抽出したDNAを用いて、腐蛆中のアメリカ腐蛆病菌の遺伝子を直接、PCRで検出することも可能である。また、アメリカ腐蛆病菌の強いタンパク分解能を利用したミルクテストも有効であるが、アメリカ腐蛆病菌が存在してもミルクテスト陰性になる場合もあるので、これだけで確定診断をすることはできない。

 ヨーロッパ腐蛆病:腐蛆をBaileyの培地またはKSBHI培地を用いて、35〜37℃、嫌気下で分離培養し、ヨーロッパ腐蛆病菌特異的PCRで同定する。以前、本菌はBHI培地には発育しないとされていたが、BHI培地に発育する株も存在し、わが国では高頻度に分離される。また、腐蛆の乳剤から抽出したDNAを用いて、腐蛆中のヨーロッパ腐蛆病菌の遺伝子を直接、PCRで検出することも可能である。

 

 

4.予防・治療

 

 腐蛆病の発生蜂群は焼却し、本病の蔓延を防止する。アメリカ腐蛆病の予防には、抗生物質製剤(タイロシン)が利用できる。

 

 

5.発生情報

 

 監視伝染病の発生状況(農林水産省)

 

 

6.参考情報

 

 巣脾消毒研究紹介リーフレット

 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)



編集:動物衛生研究部門

(令和3年12月 更新)

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