届出伝染病

アカバネ病(Akabane disease)

牛鹿馬めん羊山羊豚家きんその他家きんみつばちその他家畜
対象家畜:牛、水牛、めん羊、山羊

1.原因

 

 ブニャウイルス目(Bunyavirales)、ペリブニャウイルス科(Peribunyaviridae)、オルソブニャウイルス属(Orthobunyavirus)、アカバネウイルス種(Akabane orthobunyavirus)、アカバネウイルス(Akabane virus)。ゲノムは単鎖のマイナスRNAで、3本の分節で構成。ウイルス粒子はエンベロープを持ち、大きさは直径90〜100nm。

 

 

2.疫学

 

 アカバネウイルスは当初、キンイロヤブカ(Aedes vexans)およびコガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)から分離されたが、その後の調査の結果、我が国ではウシヌカカ(Culicoides oxystoma)(図1)が主要なベクターになっていると考えられる。ウシヌカカが分布しない北日本では、シガヌカカ(C. tainanus)、ホシヌカカ(C. punctatus)等が伝播することが示唆されている。オーストラリアではオーストラリアヌカカ(C. brevitarsis)、中東ではC. imicola がアカバネウイルスを媒介する。アカバネウイルスは、偶蹄類などの大型、中型動物に広く感染する。九州以北では、夏から秋にかけてウイルスの伝播が起こり、冬期には終息する。胎子感染による死産や先天異常を持った子牛の分娩は、伝播が起こった年の冬から翌年の春にかけてみられる。分離ウイルスの遺伝子解析から、複数の遺伝型が日本に入れ替わりに侵入し、一過性の流行を繰り返していると考えられている。

 

 

3.臨床症状

 

 アカバネウイルスは、牛、水牛、めん羊、山羊に病原性を示す。妊娠動物が感染すると、流産、早産、死産または、四肢の関節彎曲や脊柱彎曲などの体形異常(関節彎曲症)や、水無脳症(大脳欠損症)などの中枢神経異常を伴う先天的な奇形がみられる。これらの症状をまとめて「異常産」と呼称している。感染した妊娠動物がすべて発症するわけではなく、また、先天異常の様態や程度は感染時の胎齢によって変化する。流行株によっては、生後感染により若齢牛に脳脊髄炎を起こし、発症牛の多くで後肢あるいは前肢の麻痺を伴う起立不能や運動失調などの神経症状が観察される。近年、神経症状を示す子豚や、関節彎曲症や水無脳症を呈する死産胎子から、アカバネウイルスが検出される例が散発的に報告され、豚でも病原性を示すことが疑われている。

 

 

4.病理学的変化

 

 アカバネウイルスが胎齢初期に感染すると非化膿性脳脊髄炎と多発性筋炎がみられ、その程度が重篤な場合は、胎子が死亡し、流産、死産あるいはミイラ変性を起こす。胎子が死亡しない場合、水無脳症や神経組織間の空隙の形成、脊髄腹角の神経細胞の減少など、2次的な病変が生じる。また、中枢神経の損傷や多発性筋炎が原因となり、関節彎曲症が起こる。生後感染により子牛で神経症状を呈した場合には、非化膿性脳脊髄炎が認められる。

 

 

5.病原学的検査

 

 流産胎子など、ウイルス感染から時間が経過していない場合は、胎子の血液や脳脊髄乳剤あるいは臓器乳剤や腹水、胸水などの新鮮な材料を、乳のみマウスの脳内あるいはハムスター由来のHmLu-1細胞、BHK-21細胞に接種し、ウイルス分離を行う。生後感染例では、中枢神経を材料としたウイルス分離が可能である。また、RT-PCRやリアルタイムRT-PCRによるウイルス特異遺伝子の検出も行われる。胎子の脳あるいは筋肉の凍結切片から、蛍光抗体によりウイルス抗原の検出を行う。ホルマリン固定した材料を用いて、免疫組織化学的染色により、ウイルス抗原の検出が可能である。先天異常子の中枢神経からも、ウイルス特異遺伝子が検出された例も報告されている。

 

 

6.抗体検査

 

 先天異常子が初乳未摂取の場合、血清中の抗体の有無を中和試験などにより判定する。

 

 

7.予防・治療

 

 市販されている生ワクチン、もしくは不活化ワクチンをベクターの活動が活発になる夏前に接種する。殺虫剤や忌避剤等を用いたベクター対策は、予防効果が完全とはいえない。治療法はない。

 

 

8.発生情報

 

 監視伝染病の発生状況(農林水産省)

 

 アカバネ病:2006年・生後感染、胎子感染・発生情報:家畜衛生週報、No.2949、110 (2007);No.2953、140 (2007)

 

 

9.参考情報

 

 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、牛病学第3版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)

 おとり牛を用いたアカバネ病等の抗体調査

 平成18年9月以降に確認されたアカバネ病の状況と今後の対策:家畜衛生週報、No.2947、91-94 (2007.4.2)

 アカバネウイルス野外分離株の分子疫学的解析:平成18年度 動物衛生研究成果情報

 アカバネウイルスによる牛の脳脊髄炎とその診断法:平成20年度 動物衛生研究成果情報

 特定の遺伝子グループのアカバネウイルスが牛の脳脊髄炎を流行させている:動物衛生研究部門 2017年の成果情報

 国内に分布するヌカカのアカバネウイルス感受性:動物衛生研究部門 2018年の成果情報

 本州北部においてアカバネウイルスを媒介するヌカカの種類を示唆:動物衛生研究部門 2019年の成果情報


左・コガタアカイエカ、右・ウシヌカカ(原図:動物衛生研究所・梁瀬 徹氏)
図1:左・コガタアカイエカ、右・ウシヌカカ


編集:動物衛生研究部門

(令和3年12月 更新)

  1. 01 ブルータング
  2. 02 アカバネ病
  3. 03 悪性カタル熱
  4. 04 チュウザン病
  5. 05 ランピースキン病
  6. 06 牛ウイルス性下痢
  7. 07 牛伝染性鼻気管炎
  8. 08 牛伝染性リンパ腫
  9. 09 アイノウイルス感染症
  10. 10 イバラキ病
  11. 11 牛丘疹性口内炎
  12. 12 牛流行熱
  13. 13 類鼻疽
  14. 14 破傷風
  15. 15 気腫疽
  16. 16 レプトスピラ症
  17. 17 サルモネラ症
  18. 18 牛カンピロバクター症
  19. 19 トリパノソーマ症
  20. 20 トリコモナス症
  21. 21 ネオスポラ症
  22. 22 牛バエ幼虫症
  23. 23 ニパウイルス感染症
  24. 24 馬インフルエンザ
  25. 25 馬ウイルス性動脈炎
  26. 26 馬鼻肺炎
  27. 27 ヘンドラウイルス感染症
  28. 28 馬痘
  29. 29 野兎病
  30. 30 馬伝染性子宮炎
  31. 31 馬パラチフス
  32. 32 仮性皮疽
  33. 33 伝染性膿疱性皮炎
  34. 34 ナイロビ羊病
  35. 35 羊痘
  36. 36 マエディ・ビスナ
  37. 37 伝染性無乳症
  38. 38 流行性羊流産
  39. 39 トキソプラズマ症
  40. 40 疥癬
  41. 41 山羊痘
  42. 42 山羊関節炎・脳炎
  43. 43 山羊伝染性胸膜肺炎
  44. 44 オーエスキー病
  45. 45 伝染性胃腸炎
  46. 46 豚テシオウイルス性脳脊髄炎
  47. 47 豚繁殖・呼吸障害症候群
  48. 48 豚水疱疹
  49. 49 豚流行性下痢
  50. 50 萎縮性鼻炎
  51. 51 豚丹毒
  52. 52 豚赤痢
  53. 53 鳥インフルエンザ
  54. 54 低病原性ニューカッスル病
  55. 55 鶏痘
  56. 56 マレック病
  57. 57 鶏伝染性気管支炎
  58. 58 鶏伝染性喉頭気管炎
  59. 59 伝染性ファブリキウス嚢病
  60. 60 鶏白血病
  61. 61 鳥結核
  62. 62 鳥マイコプラズマ症
  63. 63 ロイコチトゾーン症
  64. 64 あひるウイルス性肝炎
  65. 65 あひるウイルス性腸炎
  66. 66 兎出血病
  67. 67 兎粘液腫
  68. 68 バロア症
  69. 69 チョーク病
  70. 70 アカリンダニ症
  71. 71 ノゼマ症

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