
牛ウイルス性下痢(bovine viral diarrhea-mucosal disease)









1.原因
フラビウイルス科(Flaviviridae)ペスチウイルス属(Pestivirus)に分類される牛ウイルス性下痢ウイルス(Bovine viral diarrhea virus: BVDV)が原因となる。BVDVはエンベロープを有する、プラス1本鎖のRNAウイルスである。豚熱ウイルスやボーダー病ウイルスと近縁である。本ウイルスは細胞病原性(CP)と非細胞病原性(NCP)の2つの生物型がある他、遺伝子型で1型、2型に分かれ、さらにいくつかの血清型が存在する。
2.疫学
本ウイルスによる牛ウイルス性下痢は季節、地域に関係なく発生し、牛、水牛、山羊、羊、豚、鹿等に感染するが牛の感受性が最も高い。
3.臨床症状
本ウイルスのNCP株が抗体陰性妊娠牛に感染すると胎子への垂直感染が容易に成立し死流産や奇形等の先天性異常を引き起こす。特に免疫応答が未熟な胎齢100日以下の胎子感染ではウイルスを一生排泄しつづける持続感染牛(写真1)となることがある。持続感染牛はCP株の重感染により致死的な粘膜病を発症する高リスク群と考えられている。一方非妊娠牛では不顕性に終わる事が多く、子牛で一過性の発熱や下痢を示すことがあるが、抗体を保有して概ね回復する。2型ウイルスの一部には下痢とともに顕著な血小板減少が認められ急性経過で死に至る強毒ウイルスが存在し、1990年代に北米で多大な被害をもたらした。我が国では非致死的な弱毒タイプの2型ウイルスのみが確認されている。
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写真1:持続感染牛、人工授精後、子宮内環流による胚採取で正常な初期胚を確認した個体 |
4.病理学的変化
肉学的所見は粘膜病発症牛では鼻粘膜の充血(写真2)、第三胃、第四胃(写真3)および腸管粘膜における糜爛、潰瘍、出血等が認められる。また脾臓の萎縮が観察されることがある。先天性異常子牛では小脳形成不全、内水頭症が確認されている。組織学的には粘膜病において小腸パイエル板リンパ組織の萎縮、白脾髄の壊死等が観察される。一過性感染および持続感染では顕著な異常はみられない事が多い。
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写真2:粘膜病発症牛の鼻粘膜充血 | 写真3:粘膜病発症牛の第4胃潰瘍 |
5.病原学的検査
生前時では血清や白血球、鼻腔拭い液や下痢便からのウイルス分離を行う。死亡時には肺、腎、脾やリンパ節からウイルスを分離する。末梢白血球や各種組織からのRT-PCR法などの遺伝子検査法も用いられており、増幅された遺伝子を解析することにより流行株の特定や牛の移動歴に基づいた疫学調査が可能となる。
6.抗体検査
抗体検査では常法によるペア血清の中和試験を実施する。持続感染牛では抗体陰性を示し、初乳未摂取の先天性異常子牛では抗体陽性を認めることが診断の一助となる。
7.予防・治療
一過性感染は自然治癒するが、持続感染および粘膜病は治療法がないため予防が重要となる。農場にウイルスを持ち込まないよう、車両の消毒、導入牛の検査を徹底するとともに、多量のウイルスを排泄する持続感染牛や粘膜病発症牛は早期に淘汰することが望ましい。BVDVには各種消毒薬が有効であり、中でもアルコール系、次亜塩素酸系、逆性石鹸が広く用いられる。また、本疾病の蔓延を防ぐにはワクチン接種も効果的であり、ワクチン選定にあたっては、1型と2型両者に有効な混合ワクチンの使用が好ましい。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)