破傷風(tetanus)
1.原因
グラム陽性偏性嫌気性の有芽胞菌である破傷風菌(Clostridium tetani)の芽胞が創傷部から侵入し、発芽・増殖した菌が神経毒(テタノスパスミン)を産生することによって起こる。テタノスパスミンは菌の自己融解にともなって菌体外に放出される。本菌は、土壌、水中など環境中や動物の腸管内などに広く分布する。運動性は活発で強い遊走能を示す。また、球形の芽胞を菌端部に作る。芽胞は菌体の幅より大きいため、芽胞を有する菌体は特徴的な太鼓ばち状の形態を示す。
2.疫学
破傷風は、人獣共通の急性感染症である。家畜では馬が最も感受性が高いが、牛、めん羊、山羊、豚にもみられる。創傷部位からの感染によって起こる疾病であるため、分娩、去勢、断尾などにともなって発生することが多い。また、新生子では臍帯からの感染が原因となることが多い。近年の届出件数(頭数)は、馬では年間0〜数頭、牛では70〜100頭程度である。
3.臨床症状
本菌が産生する神経毒(テタノスパスミン)により、全身の筋肉の強直性痙攣を起こす。特に馬はテタノスパスミンへの感受性が高く、咬筋の痙攣による牙関緊急、その他の頭部の筋肉の痙攣による眼球振盪、瞬膜露出、鼻翼開張、耳翼佇立、全身の筋肉の痙攣による四肢の開張姿勢(木馬様姿勢)、後弓反張などの症状を示す。病性が進むと呼吸困難により死に至る。牛でも馬と同様の症状を示すが、進行は馬よりも緩慢である。
4.病理学的変化
特徴的な病変や病理所見は、中枢神経系をはじめ、その他の臓器についても認められない。明らかな受傷部位や手術創が存在し、化膿巣が認められる場合には、病変部に壊死組織とともに太鼓ばち状の有芽胞菌が観察されることがある。
5.病原学的検査
創傷部あるいは病変部の直接塗抹標本を、グラム染色あるいはギムザ染色して太鼓ばち状の有芽胞桿菌を確認するとともに、創傷感染部位を材料にして嫌気培養で破傷風菌を分離する。必要に応じて、あらかじめ脱気したクックドミート培地などで増菌培養後に、変法GAM寒天培地などで分離を試みる。組織材料や増菌培養液中の破傷風菌の有無を確認する目的で、材料をマウスに接種して、破傷風に特徴的な症状を確認する方法もあるが、破傷風毒素遺伝子を標的としたPCRでも代替可能である。
6.予防・治療
破傷風は、血中に十分な抗毒素抗体があれば完全に発症を防げる感染症であるため、過去に発生経験を持つ農場や汚染地帯では破傷風トキソイドの接種により予防効果が期待できる。また、家畜の飼養環境から創傷形成の原因となる要因を取り除くとともに、飼養環境や除角、去勢、断尾等に使用する器具を消毒することも予防には重要である。
発症した場合は、刺激の少ない暗く静かな環境におき、破傷風抗毒素血清を出来るだけ早期かつ大量に投与することが推奨されるが、神経に結合する前の毒素に抗毒素抗体が結合しないと効果が発揮されないため、末期では効果は少ない。ペニシリン投与や感染部位の除去と洗浄も破傷風菌の排除には効果がある。
7.発生情報
8.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)、病性鑑定指針(農林水産省消費・安全局)
写真1:斜面培地(VL-g寒天培地)の上端まで遊走した破傷風菌 | 写真2:太鼓ばち状芽胞を示す破傷風菌 |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)