気腫疽(blackleg)
1.原因
グラム陽性偏性嫌気性の有芽胞菌である気腫疽菌(Clostridium chauvoei)の芽胞が創傷部または消化管損傷部から体内に侵入することにより発症する。本菌は両端鈍円の桿菌で、周毛性の鞭毛を持ち、土壌および動物の腸管内に分布する。芽胞は卵型で菌体より膨隆し、亜端在〜端在性であることが多いため、芽胞を有する菌体はスプーン状の形態を呈する。菌体中央に芽胞が形成されることもあり、その場合はレモン状の形態を呈する。マウスに致死性の外毒素を産生する。
2.疫学
気腫疽は致死率が非常に高い病気であり、主に反芻獣に感染する。6ヶ月齢から3歳の若い牛が罹りやすいが、ワクチン接種の普及に伴い発生数は減少しており、近年の届出件数は年間数件である。
3.臨床症状
突然の高熱、元気消失、食欲廃絶、反芻停止、跛行などの運動機能障害を呈し、肩部や臀部などの多肉部および四肢に腫脹が認められる。腫脹部は初期には熱感と疼痛を伴うが、その後、冷感を帯び、無痛性で圧迫すると特有の捻髪音を発する浮腫として触知される。また、症状が悪化すると呼吸困難、頻脈となり1〜2日で死に至る。
4.病理学的変化
皮下織の血様膠様浸潤、暗赤色の滲出液、ガス泡形成、骨格筋の暗赤色化、スポンジ様変化、脆弱化、酪酸臭、体表リンパ節の出血、水腫性腫大、肝臓、脾臓および腎臓のスポンジ様変化、脆弱化、腐敗性変化、肺の充うっ血や水腫などがみられる。
5.病原学的検査
病変部や血液の直接塗抹標本を染色して、単在または2連鎖の有芽胞、無莢膜桿菌を確認するとともに、病変部を材料に嫌気培養で気腫疽菌を分離する。診断にあたっては、悪性水腫の原因菌の1つである Clostridium septicum と鑑別することが重要であるが、蛍光抗体法やPCRで両菌を見分けることができる。
6.予防・治療
本病は発症した場合の致死率が極めて高く、病状の進行が速いため、感染初期には抗生物質(ペニシリン)の投与も試みられることがあるが、あまり有効ではない。本菌の汚染地帯では、本菌のトキソイドを含む牛クロストリジウム感染症混合ワクチンの接種が望ましい。また、飼育環境の消毒や整備・改善も本病の予防に有効である。
7.発生情報
8.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)、病性鑑定指針(農林水産省消費・安全局)
写真1:クレーター状の特徴的な集落(VL-g寒天培地) | 写真2:気腫疽菌(モルモット肝臓のスタンプ標本) | 写真3:気腫疽菌の蛍光抗体陽性像(x400) |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)