トリパノソーマ症(trypanosomosis)
1.原因
動物の血流中で血液細胞には侵入せずに増殖するトリパノソーマ・ブルセイ(Trypanosoma brucei)、トリパノソーマ・コンゴレンス(T. congolense)、トリパノソーマ・バイバックス(T. vivax)、トリパノソーマ・エバンシ(T. evansi)、トリパノソーマ・タイレリ(T. theileri)と馬の尿道、膣粘膜下織に寄生するトリパノソーマ・エキパーダム(T. equiperdum)が病原体に含まれる。いずれも鞭毛をもつ原虫で、自由鞭毛を除き体長20〜40マイクロメートルである。
2.疫学
アフリカトリパノソーマに分類されるトリパノソーマ・ブルセイ、トリパノソーマ・コンゴレンスはツェツェバエにより生物学的に伝播する。トリパノソーマ・エバンシおよびトリパノソーマ・タイレリはアブ、サシバエにより機械的に伝播する。トリパノソーマ・バイバックスはツェツェバエによる生物学的伝播とアブ、サシバエによる機械的伝播の両方が可能である。トリパノソーマ・エキパーダムは交尾により伝播する。国内にはトリパノソーマ・タイレリのみ分布している。
3.臨床症状
主に回帰熱を伴う貧血と衰弱が特徴である。アフリカトリパノソーマは種によりヒトに致死性の睡眠病を起こすが、媒介昆虫であるツェツェバエの生息地帯が限定されるため国内への侵入・定着の可能性は低い。トリパノソーマ・タイレリは通常、感染しても無症候である。トリパノソーマ・エキパーダムは馬に外部生殖器の炎症と皮膚の浮腫を起こす。
4.病理学的変化
リンパ節、脾の腫脹。慢性経過の場合は発育不良、削痩。
5.病原学的検査
血液塗抹標本あるいは生血液滴下標本の顕微鏡検査により鞭毛をもつ病原体を確認する。必要に応じて溶血処置やヘマトクリット管遠心による白血球層への原虫濃縮により検出感度を高める。トリパノソーマ・タイレリは他の種に比べて大型であるため、形態から鑑別が可能である。血液中の原虫遺伝子を検出するPCR法も有効である。
6.抗体検査
ラテックス凝集反応、間接蛍光抗体法、補体結合反応、ELISA法等が報告されている。
7.予防・治療
ワクチンはない。予防対策として、発生地域での媒介昆虫の駆除、発生地からの動物輸入の禁止が挙げられる。トリパノソーマ・エキパーダムに関しては交尾で感染が拡大するため、感染動物の摘発・淘汰も重要である。治療を行う場合、ジアミジン製剤等を投与する。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第3版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
写真1:トリパノソーマ・ブルセイ | 写真2:トリパノソーマ・コンゴレンス | 写真3:トリパノソーマ・エバンシ | 写真4:トリパノソーマ・タイレリ |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)