ネオスポラ症(neosporosis)
1.原因
ネオスポラ・カニナム(Neospora caninum)は、アピコンプレックス門、コクシディア目、ザルコシスティス科、ネオスポラ属に属する原虫である。犬を終宿主ならびに中間宿主とする。牛、めん羊および山羊等が中間宿主となる。
2.疫学
牛のネオスポラ症の発生に、地域性および季節性はない。発生は概ね地方病性であるが、集団発生も報告されている。主要な感染経路は、胎盤を介した垂直伝播である。集団発生の場合は、オーシスト摂取による水平感染が疑われる。
3.臨床症状
流産が主要症状である。流産胎齢は通常3〜8か月、平均5.5か月である。胎児の死亡・吸収、ミイラ胎仔の娩出および死産が発生することもある。抗体陽性牛からは高頻度に先天感染子牛が娩出されるが、その大多数は不顕性感染のまま成長する。先天感染子牛の一部は、生後2か月までに、神経症状、成長不良、起立困難等の症状を呈する。
4.病理学的変化
病理解剖学的には、流産胎子で皮下の膠様浸潤、胸水および腹水等が観察される。牛のネオスポラ症は病理組織学的および免疫組織化学的検査により確定診断される。病理組織学的には、非化膿性脳炎、肝炎、心筋炎・心膜炎、骨格筋炎および胎盤炎が観察される。病変部では、タキゾイトが稀に観察される。シストは中枢神経でみられる。上記組織病変を有する症例で、免疫組織化学的にタキゾイトないしシストを検出することにより、確定診断される。
5.病原学的検査
PCR法により、本原虫特異的核酸を検出することが可能である。ただし、確定診断には、上記の病理学的検査が必要である。
6.抗体検査
間接蛍光抗体法、ELISA法、イムノブロットおよび凝集法により抗体検査が可能である。
7.予防・治療
実用的なワクチンはない。飼料のオーシストによる汚染の防除、ネオスポラ抗体陽性牛の淘汰および抗体陰性牛の導入を行うことにより、発生を減少させることが可能である。有効な治療法は報告されていない。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
写真1:牛流産胎児 | 写真2:牛流産胎児の脳にみられた、グリア細胞によって包囲された壊死巣 | 写真3:壊死巣近くで観察されたタキソイドの集塊 | 写真4:タキソイドの免疫組織化学的検査陽性所見 |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)