馬鼻肺炎(equine rhinopneumonitis)
1.原因
ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、アルファヘルペスウイルス亜科(Alphaherpesvirinae)、バリセロウイルス(Bvricellovirus)に属する馬ヘルペスウイルス1型(Equid herpesvirus 1: EHV-1)あるいは4型(EHV-4)が原因となる。EHV-1および4はエンベロープを有するDNAウイルスである。
2.疫学
EHV-1 は冬季における競走馬の流行性呼吸器病と妊娠馬の流産の原因であり、稀に神経疾患を引き起こす。EHV-4は季節に関係なく、子馬、育成馬あるいは競走馬の呼吸器病の原因である。EHV-4が原因となる流産も知られているが、その発生は稀である。鼻汁中のウイルスを含んだ飛沫および汚染されたヒトの手指や衣類および馬具などで伝播する。多くは不顕性感染すると思われる。
3.臨床症状
発症馬では発熱と鼻汁の漏出、下顎リンパ節の腫大がみられる。妊娠馬では妊娠後期に突然流産を起こす。
4.病理学的変化
流産胎子では胸水の増量および肺水腫、肝臓における微小白色壊死巣が認められる。組織学的には、肺の細気管支粘膜上皮細胞および肝細胞の壊死巣周辺部の実質細胞に核内封入体が認められる。
5.病原学的検査
鼻汁スワブおよび血液、流産胎子の主要な臓器材料を馬ならびに牛腎細胞に接種することで、ウイルス分離検査を実施する。あるいは、PCR法によりウイルス遺伝子の検出を行う。
6.抗体検査
ペア血清を用いて、中和試験、補体結合試験、あるいはELISA試験を行う。
7.予防・治療
予防には不活化ワクチンと遺伝子欠損型の生ワクチンがあるが、馬群を適切に管理することが必要である。特別な治療法はない。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)、馬の感染症第4版(JRA総研)
写真1:神経型の起立不能症例(原図:JRA総研栃木支所) | 写真2:流産胎仔肺、細気管支粘膜上皮の特異蛍光(原図:JRA総研栃木支所) |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)