馬パラチフス(equine paratyphoid)
1.原因
馬パラチフス菌Salmonella enterica subsp. enterica serotype Abortusequi。Kauffmanの抗原構造式は[4, 12:-:e, n, x]である。クエン酸塩を利用せず、硫化水素を産生しない等 他の血清型のSalmonellaと異なる性状を示す。
2.疫学
日本では北海道の重種馬に散発的な発生が認められている。海外における発生状況については、不明な点が多い。流産は一般には妊娠後期に起こることが多く、伝染性が強い。原因菌で汚染された飼料や飲用水の経口接種で感染が成立する。
3.臨床症状
流産を主徴とする。流産以外の臨床症状としては、各部位における化膿、関節炎、き甲瘻(写真1)、精巣炎が認められる。
4.病理学的変化
流産胎児では各臓器の充出血、体表の混濁、不潔感等、一般の敗血症にみられる所見が認められる。したがって、病理所見だけからで本症を診断することは困難である。流産以外の症例では、チフス性疾患様の所見が認められる例もあるが、顕著なものではない場合が多い。
5.病原学的検査
流産胎子の各臓器、胃内容物、流産母馬の悪露や化膿部の膿汁等を材料とし、非選択培地(血液寒天培地等)と選択培地(DHL寒天培地等)に接種し、37℃で好気培養する。血清型別用抗血清を用いた凝集試験によって血清型別を行う。
6.抗体検査
血清凝集反応。初めに急速凝集反応を実施し、擬陽性又は陽性の場合は試験管凝集反応により判定する。あるいはマイクロ凝集反応により判定する。なお、国内で使用される診断溶菌液は動物衛生研究所で製造しているが、O4群サルモネラ感染血清と交差反応を示すことがあるので、他の検査結果を考慮して診断する必要がある。
7.予防・治療
本病予防用の有効なワクチンはない。本病蔓延の予防には、感染源の適切な処置、飼育環境の消毒および感染馬の隔離を基本とする。本病の化学療法は確立されていないが、ニューキノロン系抗菌剤による治療が近年試みられている。免疫血清(現在は市販されていない)の投与は子馬の全身感染症の救命措置として有効であり、化学療法剤と併用するとさらに効果的である。本病清浄化のためには本病の摘発と感染馬の淘汰が最も効果的と考えられている。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、馬の感染症第4版(JRA総研)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
写真1:種雄馬のキ甲瘻(原図:JRA総研栃木支所) |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)