豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS: porcine reproductive and respiratory syndrome)
1.原因
原因となる豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV: porcine reproductive and respiratory syndrome virus)は、アルテリウイルス科、アルテリウイルス属に分類される。PRRSVは約15.1〜15.4 kbのプラス一本鎖RNAをゲノムとして有し、北米型と欧州型の二つの遺伝子型に大別される。
2.疫学
新興感染症として認識されてから20年余りでPRRSVは世界中に拡散し、我が国でも北米型および欧州型の両遺伝子型の分布が確認されている。ウイルスは全ての日齢の豚に感染し、感染が成立した生産ステージにより多様な病態を示す。鼻汁、唾液、尿、糞便、精液などの体液に多量のウイルスが排泄され、接触、飛沫および交配による水平感染や垂直感染、そして隣接する農場等では風による伝播が成立する。
3.臨床症状
PRRSは母豚の異常産を主とする繁殖障害と子豚の呼吸器障害を主徴とし、慢性疾病としての認識が一般的である。母豚に対する病原性は、主に妊娠後期の流死産が特徴であり、産子は、正常、虚弱、白子、黒子が入り混じる。哺乳豚に対する病原性は、虚弱、呼吸困難、開脚姿勢等を示し、離乳後から肥育の生産ステージでは、食欲不振、咳を伴わない呼吸困難、被毛粗剛、増体率の減少、死亡率の上昇が認められる。不顕性感染も多くみられるが、免疫担当細胞に感染することから、他の様々な病原体と混合感染し、病態を悪化させる。
4.病理学的変化
感染豚の肺は全体に硬結感があり、組織学的には全葉性の間質性肺炎が認められる(写真1)。異常産子においては、特徴的な病理所見は認められない。
5.病原学的検査
感染豚の肺、扁桃、血清などを材料とし、豚肺胞マクロファージやMARC-145細胞を用いたウイルス分離、免疫組織化学染色法による抗原検出(写真2)、RT-PCR法およびリアルタイムRT-PCR法による遺伝子検出が用いられる。PCR-RFLPによる遺伝子型の判別も実施されることがある。
6.抗体検査
抗体は感染後速やかに上昇し、長期間継続して検出されるために有用である。ELISA法、MARC-145細胞を用いた間接蛍光抗体法(IFA)(写真3)、ペルオキシダーゼ抗体法(IPMA)が用いられる。
7.予防・治療
被害を確実に防止する方法は確立されておらず、最良の予防法は農場へのウイルスの侵入を防止することである。陽性農場における被害軽減のためには、母豚への免疫付与、農場内バイオセキュリティーの向上、豚群のコントロールによる感染環の遮断等の総合的な飼養衛生管理の徹底が求められる。また、北米型弱毒生ワクチンが病態の軽減を目的として市販されている。他の病原体の対策を講じることによって、混合感染による被害を軽減することも重要である。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
写真1:PRRS肺炎野外症例 肺胞中隔の肥厚した間質性肺炎 | 写真2:PRRS肺炎野外症例 肺胞マクロファージ内のPRRSウイルス抗原 | 写真3:IFAにより検出したPRRSV特異抗体。 |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)