届出伝染病

豚流行性下痢(porcine epidemic diarrhea)

牛鹿馬めん羊山羊豚家きんその他家きんみつばちその他家畜
対象家畜:豚、いのしし

1.原因

 

 コロナウイルス科 (Coronaviridae) アルファコロナウイルス属 (Alphacoronavirus) ペダコウイルス亜属 (Pedacovirus) に分類される豚流行性下痢ウイルス (Porcine epidemic diarrhea virus:PEDV) 。ウイルス粒子は直径約95〜190nmの球形または不定形で、エンベロープの表面に放射状に突き出たスパイクを持つ。ゲノムはプラス鎖の一本鎖RNAである。血清型は単一。同じアルファコロナウイルス属の伝染性胃腸炎ウイルスとのウイルス中和法による交差反応性はない。

 

 

2.疫学

 

 PEDVは主に腸管上皮細胞で増殖し糞便中に大量に排泄されるため、豚間のウイルス伝播は主に糞便を介した経口感染による。農場間のウイルス伝播は、感染豚の移動、並びに汚染物品、汚染車両及びネズミ等野生動物を介した機械的伝播により成立する。全ての日齢で感染が成立するが、成豚では不顕性が多い一方、幼齢豚ほど症状が重く死亡率も高い。本病は季節を問わず発生するが、冬から春にかけての報告が多い。抗体陰性農場では爆発的に流行する(流行型)。全ての豚が感染し免疫を獲得するとウイルスは農場から消失するが、頻繁な種豚導入を行う農場や大規模一貫経営農場などでは連続的に供給される感受性豚間でウイルス感染環が形成され、ウイルスが農場に常在することがある(常在型)。

 本病は2013年から2015年にかけて北米、中南米、東アジア及び東南アジアで同時多発的に流行した。国内では1982年に初めて本病の疑い事例が確認され、その後1982-1984年、1994年、1996年に数千頭〜数万頭が死亡する大規模な流行があった。2001年以降、国内での発生は散発的となるが、本病の世界的流行と同時期に再び流行し、2013年9月の初発から1年間で38道県817戸において約122万頭が発症し約37万頭が死亡した。

 

 

3.臨床症状

 

 水様性下痢、嘔吐、並びに食欲不振等の急性胃腸炎症状を主徴とする。母豚では食欲低下や脱水による泌乳減少や停止を起こし、哺乳豚の飢餓と脱水を増悪させる。日齢が進んだ豚では軟便にとどまり、致死率も低下する。常在型では、新たに離乳舎や育成舎へ移動した豚が移動後2〜3週間で下痢を呈することが報告されている。流行型の発生では豚伝染性胃腸炎及び豚デルタコロナウイルス感染症と症状が類似する。常在型の発生では、乳汁免疫の消失する離乳前後の豚でロタウイルス感染症、大腸菌症、豚コクシジウム症、並びにクロストリジウム症と類似した症状が認められる。

 

 

4.病理学的変化

 

 肉眼的に胃の膨満と未消化凝固乳の貯留、小腸での未消化凝固乳または黄色泡沫状漿液の貯留と粘膜の菲薄化がみられる。組織学的には粘膜上皮細胞の空胞化、扁平化、壊死及び脱落に起因する小腸絨毛の萎縮が観察される。ウイルス抗原は小腸の他に結腸の上皮細胞でも検出される。

 

 

5.病原学的検査

 

 発症豚の糞便又は小腸乳剤を用いたRT-PCR法によるウイルス核酸の検出、並びにVero細胞を用いたウイルス分離、又は発症初期の小腸、特に空腸下部から回腸にかけてのホルマリン固定・パラフィン包埋切片を用いた免疫組織染色によるウイルス抗原の検出を行う。RT-PCRによる糞便中のウイルス遺伝子検出は迅速性に優れ、伝染性胃腸炎と豚デルタコロナウイルス感染症との鑑別に有用である。

 

 

6.抗体検査

 

 ウイルス中和法により急性期と回復期のペア血清で抗体価の有意上昇を確認する。

 

 

7.予防・治療

 

 農場の出入り管理と衛生対策を組み合わせたバイオセキュリティーによりウイルスの侵入・蔓延防止に努める。また、乳汁免疫の誘導を目的とした母豚接種ワクチン(弱毒生ワクチンと不活化ワクチン)が市販されている。発生時の治療は二次感染防御のため抗生物質投与、脱水防止の補液投与等の対症療法が主となる。

 

 

8.発生情報

 

 監視伝染病の発生状況(農林水産省)

 

 

9.参考情報

 

 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)、Diseases of Swine, 11th edition (Wiley-Blackwell)



編集:動物衛生研究部門

(令和3年12月 更新)

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