萎縮性鼻炎(atrophic rhinitis of swine)
1.原因
Bordetella bronchiseptica および毒素産生性Pasteurella multocida。
2.疫学
B. bronchiseptica は豚の鼻腔に容易に定着して鼻粘膜に炎症を導き、産生される皮膚壊死毒(DNT)の作用により幼若豚の鼻甲介骨形成を阻害する。P. multocida は正常な鼻粘膜には定着せず、B. bronchiseptica 感染などに起因する粘膜の損傷により、定着が可能となる。毒素産生株の産生する毒素(PMT)はDNTに類似の毒素作用を有し、病変形成を加速するとともに本病の症状を著しく悪化させる。
3.臨床症状
感染時の日齢が低いほど強い症状を発現する。発病の初期にはくしゃみ、鼻汁(漿液性)の漏出、鼻づまりなどがみられる。鼻汁が粘液膿性になると鼻づまりが著しくなり、くしゃみを頻発し、しばしば鼻出血がみられる。涙管の狭窄あるいは閉塞により流涙がみられ、内眼角下部の皮膚に黒褐色の斑点(アイパッチ)が生ずる。発病後1か月を過ぎると、鼻梁の側方湾曲(鼻曲がり)、鼻梁背側の皮膚の皺襞形成など、顔面の変形が明らかになる。
4.病理学的変化
病変は呼吸器に限定される。本病に特徴的な鼻甲介の形成不全あるいは萎縮を除けば、肉眼的変化に乏しい。組織学的には、上皮細胞の変性・剥離と線毛の脱落、上皮の過形成と化成、固有層および粘膜下組織における細胞浸潤と線維芽細胞の増生など、鼻粘膜にカタル性炎像がみられる。骨組織では骨芽細胞の変性・壊死、類骨形成の阻害など、造骨機構の抑制がみられ、毒素産生性 P. multocida の感染が加わると、破骨細胞の増生に伴う活発な骨融解により、激しい病変が導かれる。
5.病原学的検査
鼻腔分泌液を血液寒天およびMacConkey寒天に塗抹し、好気培養する。B. bronchiseptica の分離率のピークは生後3〜4か月ころにあり、6か月齢以上の豚からは検出されにくい。P. multocida が分離された場合には、毒素産生能についても調べる必要がある。
6.抗体検査
B. bronchiseptica 莢膜抗原に対する血清抗体を凝集反応により検出することができる。毒素産生性P. multocida の感染を検出する有効な血清診断法はない。
7.予防・治療
種々のワクチンが使用されている。治療薬としてはサルファ剤、テトラサイクリン系抗生物質、カナマイシンなどが使用される。本病は保菌豚の導入により持ち込まれることが多く、清浄な農場から豚を導入することが極めて重要である。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
写真1:Bordetella bronchiseptica のコロニー(原図:元動物衛生研究所、石川 整氏) | 写真2:Bordetella bronchiseptica のグラム染色(原図:元動物衛生研究所、石川 整氏) | 写真3:萎縮性鼻炎の鼻甲介の病変・左(正常)、右(発病豚)(原図:元動物衛生研究所、石川 整氏) |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)