豚赤痢(swine dysentery)
1.原因
原因菌はブラキスピラ(Brachyspira)属の B. hyodysenteriae である。本菌は、長さ7〜10μm、幅0.3〜0.4μmのグラム陰性らせん状菌であり、嫌気条件下でのみ発育する。血液寒天培地上で薄い膜状のコロニーを形成し、強い溶血性を示す。また、豚の腸管からは、豚結腸スピロヘータ症の原因である B. pilosicoli 、非病原性の B. innocens 、病原性の不明な B. murdochii 、B. intermedia が分離されることがあるが、これらは弱い溶血性を示す菌種であり、区別は比較的容易である。
2.疫学
感染様式は発症豚および保菌豚が排泄した糞便を摂取することによる経口感染であり、品種、性別に関係なく発病するが、離乳後の肥育豚での発生が多い。保菌豚の導入をきっかけとし、養豚場全体に蔓延することが多く、一度常在化した場合、その根絶は困難を極める。死亡率は5%程度であるが、発育遅延および飼料効率の低下をもたらすため、その経済的損失は大きい。
3.臨床症状
元気消失、食欲減退に始まり、発症極期には本病の特徴である悪臭のある粘血下痢便を排泄する。便の性状は初期には黄灰色軟便から泥状便、次いで粘液・血液・剥離粘膜上皮を混じた下痢便へと変化する。
4.病理学的変化
病変は、盲腸、結腸および直腸に限局し、腸間膜リンパ節は腫脹する。腸壁は水腫性に肥厚し充血がみられる。粘膜面は暗赤色を呈し、出血が認められる。粘膜面の小潰瘍、偽膜の形成がみられることもある。陰窩では、上皮細胞の過形成、陰窩腔の拡張と粘液の充満がみられ、Warthin-Starry(ワーチン・スターリー)と銀染色では、B. hyodysenteriae が粘膜表面、陰窩腔および杯細胞などの上皮細胞に確認される。
5.病原学的検査
原因菌の分離には、発症豚の糞便、病変部大腸粘膜を材料とし、血液寒天培地に抗生物質を添加した選択培地(BJ培地又はCVS培地)を用い、37℃で4~6日間嫌気培養を行う。また、検査材料を適当に処理したものをテンプレートとしたPCRでの迅速診断も可能である。
分離菌は純培養後、溶血性(強弱)の観察、生化学的性状試験、PCR(又はPCR-RFLP)を行い、菌種を同定する。
6.抗体検査
実用的な抗体検査法は確立されていない。
7.予防・治療
予防には、導入豚の隔離飼育と有効薬剤の投与、オールイン・オールアウト方式による飼養環境の清浄化が有効である。
治療薬としてチアムリン、バルネムリン、リンコマイシン、 タイロシンが国内で認可されているが、全ての薬剤で耐性菌が確認されているため、治療前に感受性試験を実施する必要がある。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
写真1:腹痛のためつま先立ちとなり、臀部には下痢便が付着する。(実験感染豚) | 写真2:未消化物を含む粘血下痢便(実験感染豚) | 写真3:大腸壁と腸間膜の水腫と粘膜の充血と肥厚 | 写真4:大腸粘膜の偽膜形成と小潰瘍の散在 |
写真5:ブラキスピラ3菌種の溶血性の違い | 写真6:ブラキスピラ3菌種のグラム染色像(バーは10μm) |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)