鶏痘(fowl pox)
1.原因
皮膚の痂皮(かさぶた)形成を特徴とする鶏痘の原因である鶏痘ウイルス(Fowlpox virus)は、ポックスウイルス科、アビポックスウイルス属の2本鎖DNAウイルスである。このウイルスはエンベロープを有し、エーテル耐性である。成熟粒子はウイルスの中では大型で約330×280×200nm、形はやや丸みを帯びたレンガ状である。ウイルスは乾燥に対して抵抗性が強く、乾燥した痂皮内では数ヵ月から数年間感染性を維持する。熱に対しては比較的弱く、50℃ 30分間あるいは60℃ 8分間の加熱で不活化される。
2.疫学
鶏痘ウイルスはカやヌカカなど吸血昆虫により機械的に伝播し、皮膚に感染する。ウイルス粒子を含む羽毛や乾燥した痂皮から発生した粉じんやエアロゾルは呼吸器粘膜のウイルス感染の原因となる。
3.臨床症状
皮膚型、粘膜型、両者を発症する混合型に分類される。皮膚型では皮膚の無羽部、特に肉冠、肉垂、眼瞼、嘴などの痂皮形成が特徴的である。粘膜型では口腔、咽喉頭部、気管などの粘膜に病変が認められる。粘膜の病変により飲水や呼吸が障害され、体重減少、産卵率の低下、死亡率の増加を示す場合がある。
4.病理学的変化
組織学的には、皮膚や粘膜に形成された病変部の上皮細胞は風船様に著しく腫大し、増殖する。感染細胞の細胞質内には、巨大な好酸性状封入体(ボリンゲル小体)が認められる。皮膚型では、ブドウ球菌などの二次感染が起こることがある。
5.病原学的検査
病変部の乳剤を10-11日齢発育鶏胚の漿尿膜上に接種し、接種3-6日後に漿尿膜の腫脹とポック形成の有無を確認する。PCRでウイルス遺伝子を検出する。
6.抗体検査
抗体検査は本病では有用でない。鶏痘ウイルス感染では、細胞性免疫と液性免疫が重要であるが、細胞性免疫検査は日常の応用は難しい。液性免疫では、中和試験、ゲル内沈降反応などがあるが疾病診断には有用でない。
7.予防・治療
ワクチンにより予防する。弱毒生ウイルスの翼膜穿刺が一般的である。ワクチン効果は、接種7-10日後に接種部位の腫脹や痂皮形成の有無により確認する。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)、家禽疾病学 第2版(鶏病研究会)、Diseases of Poultry 14th Edition
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)