ロイコチトゾーン症(leucocytozoonosis)
1.原因
ロイコチドゾーン属原虫は鳥類のみに寄生し、現在約70種が知られているが、日本での鶏のロイコチトゾーン症は、ロイコチトゾ−ン・カウレリー(Leucocytozoon caulleryi)が問題となる。
2.疫学
L. caulleryiは、媒介昆虫ニワトリヌカカ(Culicoides arakawae)によって伝播される。宿主特異性が強いため鶏以外には罹らず、ヒナは高い死亡率を示す。東南アジアを中心に発生が見られ、日本(北海道を除く)では媒介ヌカカの発生時期と一致し、毎年夏に多く発生が認められる。特に抗原虫剤の使用が禁止されている産卵鶏群では、有効な防除対策が確立されていないため問題となる。
3.臨床症状
鶏の日齢、体重、感染スポロゾイト数などにより症状は異なる。重症の場合、沈鬱、うずくまり、羽毛を逆立て、出血、死亡する(写真1)。生残鶏では、犬座姿勢、貧血(写真2)、緑色便の排泄(写真3)、削痩、産卵低下あるいは停止、軟卵の産出が認められる。
写真1:喀血死亡鶏 | 写真2:左・正常鶏、右・貧血鶏 | 写真3:感染鶏が排泄した緑色便 |
4.病理学的変化
喀血あるいは出血死亡した鶏では、広範な臓器・組織に点状出あるいは斑状出血斑(写真4)、腹腔内の血液貯留(写真5)などがみられる。軽度感染では皮下出血程度のものもある。
写真4:胸筋の点状出血 | 写真5:腹腔内血液貯留 |
5.病原学的検査
喀血や出血で死亡した鶏では、出血部位の新鮮圧平標本(写真6)や組織切片(写真7)によりシゾントを確認する。貧血や緑色便を排泄している鶏では、末梢血液塗抹標本(薄層)を作製し、ギムザ染色後、赤血球内に寄生するメロゾイト(写真8)あるいは血球外のガメトサイト(写真9)を検出する。
写真6:腎臓の生鮮圧片標本でのシゾント塊 | 写真7:組織標本での第2代シゾント(ヘマトキシリン・エオジン染色) | 写真8:血液塗抹標本でのメロゾイト(ギムザ染色) | 写真9:血液塗抹標本でのミクロガメトサイト(上、赤紫色)およびマクロガメトサイト(下、青紫色)、(ギムザ染色) |
6.抗体検査
寒天ゲル内沈降反応。
7.予防・治療
有効な治療法はない。
ブロイラーおよび10週齢までの採卵鶏ヒナには、アンプロリウム・エトパベート・スルファキノキサリン合剤やハロフジノン・ポリスチレン・スルホン酸カルシウムの飼料添加が有効である。10週齢以降、産卵開始前までの採卵鶏ヒナには、サルファ剤やその関連合剤である動物用医薬品を用いて予防する。産卵中の鶏に対しては、媒介昆虫対策として殺虫剤を散布しニワトリヌカカの数を減らして感染の機会を減らす。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、最新寄生虫学・寄生虫病学(講談社)、家禽疾病学第2版(鶏病研究会)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)