兎粘液腫(myxomatosis)
1.原因
ポックスウイルス科、コルドポックスウイルス亜科、レポリポックスウイルス属の粘液腫ウイルス (myxoma virus)。2本鎖DNAウイルスで、形態はレンガ状をしており、大きさは300×250×200 nm、エンベロープを有する。
2.疫学
南米および北米大陸に棲息するワタオウサギ(Sylvilagus)属の兎で流行していた疾病であったが、豪州や欧州の特定の地域に人為的に持ち込まれ、これらの地域でも常在している。わが国での発生はない。欧州産のアナウサギ(Oryctolagus)属の兎は重篤化しやすく、ワタオウサギは症状が軽い。兎間の直接接触による他、吸血昆虫(主にウサギノミ)により機械的に伝播される。
3.臨床症状
全身(特に眼瞼周囲や生殖器周辺)の皮下にゼラチン状の腫瘍(粘液腫)を形成する。さらに膿性鼻汁の漏出、結膜炎あるいは失明、発熱、食欲低下、元気消失、細菌の二次感染による肺炎、多臓器不全が起こり、発病後2週間以内に死亡する。強毒ウイルスによる急性感染の場合は、元気消失以外の特徴的変化を認めず発病後48時間以内に死亡する。一方、ワタオウサギでは死亡せず、感染部位に良性の線維腫が形成されるのみである。
4.病理学的変化
真皮から皮下にかけて、境界明瞭な水腫性の腫脹が認められる。粘液様物質がその主体をなし、その中で紡錘型または星芒状の腫瘍細胞が疎に散在する。腫瘍細胞の細胞質内には好酸性の封入体が認められる。一部出血を伴う。
5.病原学的検査
生検材料からウイルスを分離する。
6.抗体検査
ELISAにより抗体を測定する。
7.予防・治療
欧州では、ペットの兎に対して弱毒生ワクチンの接種が行われている。有効な治療法はなく、発症動物に対して対症療法や二次感染防止等の処置を行う。わが国において輸入検疫で本症が見つかった場合、輸出国への返送もしくは殺処分を行う。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)