届出伝染病

チョーク病(chalk brood disease)

牛鹿馬めん羊山羊豚家きんその他家きんみつばちその他家畜
対象家畜:蜜蜂

1.原因

 

 チョーク病の原因であるAscosphaera apisは子嚢菌門に属する真菌である。形態的に特徴的な胞子嚢(spore cyst:直径30〜100μm)を形成し、中に子嚢胞子(1.2〜2.0×2.0〜3.8μmの米粒状〜腎臓形)が入った胞子球(spore ball:直径8〜20μm)を含む。コロニー表面は羊毛状。培養開始時は白色で経時的に黒色へと変化する。コロニー裏面は無色。特有の酸味臭を呈する。

 

 

2.疫学

 

 本菌の胞子は環境中(土壌、花粉、蜂蜜、蜜蝋、巣箱内等)でも長期間生き延びることができる。室温で2年間貯蔵した蜂蜜からの分離例や、乾燥環境下で15年間以上の感染性の保持が確認されているため、一度発生した蜂群や蜂場では病原菌を根絶させることは容易ではない。本疾病の主要感染経路は、原因菌に汚染された飼料の給与による経口感染であるが、経皮感染も報告されている。実験感染では3〜5日齢の蜂児で高率に感染成立し、蜂児の低温曝露により発症率が上昇することが報告されている。わが国での初発は1979年に報告されているが、真菌学的には1972 年産国産蜂蜜からの分離例が報告されていることから、本菌は遅くとも1970年代初頭には我が国に侵入していたと推察される。全国的に毎年数十件の発生が報告されているが、大部分が8月の北海道での発生となっている。本病の発生が8月の北海道に多く本州で少ない理由としては、夏季の北海道における国内蜂群の一時的な集積による母集団の増大と、その際の移動ストレスおよび低温への曝露が「働き蜂の衛生行動」を低下させることと、感染蜂児の低温曝露により群としての発症リスクが増すことが考えられる。また県境を越えた転飼の際には腐蛆病検査が実施されることになっており、その際の観察中に摘発されることも関係していると考えられる。

 

 

3.臨床症状

 

 感染蜂児は本菌の成長段階によって特徴的な変化を示す。感染初期の蜂児は柔らかくスポンジ状を呈し、体表に白色綿毛状の菌糸が認められる。数日経過すると体表は石膏状となり白色ミイラ化し、胞子嚢が形成され始め、胞子嚢形成に従って黒色へ変化する。この時期の蜂児には強い酸臭を認めるとの報告がある。 死亡蜂児は働き蜂により除去されるため、病勢が進むと巣箱の底や巣門の外にミイラ化した蜂児が多数見られるようになる。感染早期の段階では巣脾端の雄蜂の蜂児に発生し、その後、働き蜂蜂児へと広がる傾向がある。本疾病は蜂児のみに発生するが、重症例では女王蜂の産卵低下が認められることが知られている。ただし成虫での感染はこれまで確認されていないことから産卵低下は蜂児の感染による巣内環境の変化によるストレスなどの副次的な要因に起因すると考えられる。

 

 

4.病原学的検査

 

 本病に対する対策は、一般の蜂病と同様に群を強勢に維持することが重要である。発生蜂群に対して、以前はソルビン酸やプロピオン酸等の噴霧、あるいは抗菌作用のある消毒薬の散布などが試みられていたが、現在、本病予防に使用できる登録薬剤はない。真菌胞子は熱に弱いことから器具の熱湯消毒、火炎滅菌などは有効であるが、本真菌は極めて乾燥に強いため乾燥処理は無効である。

 

 

5.発生情報

 

 監視伝染病の発生状況(農林水産省)

 

 

6.参考情報

 

 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、獣医伝染病学第五版(近代出版)、菌類図鑑(講談社)、カビ検査マニュアルカラー図譜初版(テクノシステム)、家畜衛生統計(農水省)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)

チョーク病−1(原図:動物衛生研究所、浜岡隆文氏) チョーク病−2(原図:動物衛生研究所、浜岡隆文氏) チョーク病−3(原図:動物衛生研究所、浜岡隆文氏)
写真1:Ascosphaera apisの発芽エキス寒天培地の発育集落 写真2:Ascosphaera apisの胞子嚢 写真3:働き蜂によって巣の外に廃棄されたチョーク病蜂児(白色および黒色ミイラ)


編集:動物衛生研究部門

(令和3年12月 更新)

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