
ノゼマ症(nosemosis of bees)









1.原因
微胞子虫類、ノゼマ科のNosema apisによって引き起こされる成蜂の消化管疾患である。経口摂取されたN. apisの胞子(4.6~6.4×2.5~3.4μm:楕円形)は、成峰腸管内で極糸を発芽し中腸上皮細胞に原形質を送り込む。その後増殖して多量の胞子を形成し、糞と共に体外に排泄された胞子が貯蜜などを汚染し次の感染源となる。胞子は巣箱内を汚染した乾燥排泄物中で数ヶ月間にわたり生残するといわれる。なお、微胞子虫門は、以前は原虫に分類されていたが、分子系統解析に基づき、現在では菌類界に分類されている。
2.疫学
本病は蜂群における成蜂の個体数減少を引き起こす主要な疾病の一つである。わが国での本病の発生は1958年に初めて報告されたが、その後の発生状況は、1997年の家畜伝染病予防法の改正により本病が届出伝染病となるまで不明であった。1998年に家畜保健衛生所により確定診断された症例が報告されて以来、日本国内でも散発的な発生が認められているが、1998年の15件を除き、年間発生届出件数は10件以下である。
3.臨床症状
早春に発生し、腹部膨満、体表面異常、飛翔不能、寿命短縮等がみられる。感染は中腸上皮に限局し、他の臓器に広がることはない。感染した蜂は糞詰まりの状態を呈し、腹部膨満、飛翔不能となり、巣門周辺を徘徊する。下痢による巣箱の異常な汚れも認められるが、ノゼマの感染が下痢の直接的な原因とする証拠はない。
4.病原学的検査
成峰の中腸内容のスメアをギムザ染色し、400〜1,000倍で鏡検して、形態学的特徴に基づきノゼマ胞子を判定する。
5.予防・治療
わが国では許可された有効な薬剤は無いことから、群を強勢に保ち、盗蜂を防ぐなどの飼養管理、越冬期の疾病まん延を防ぐ器具資材の酢酸液による消毒など基本的衛生管理を徹底するなどが重要である。
6.発生情報
7.参考情報
Corradi and Keeling, Microsporidia: a journey through radical taxonomical revisions. (2009) Fungal Biology Reviews, 23, 1?8、獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店) 、Honey Bee Pathology 2nd edition(Academic Press)、改訂獣医寄生虫学・寄生虫病学総論/原虫(講談社サイエンティフィク)
![]() |
![]() |
写真1:ノゼマの胞子、ギムザ濃染の構造物を中に持つ米粒形の胞子(ノゼマ感染成蜂の中腸スメア、ギムザ染色×1,000) | 写真2:ノゼマ症中腸病変:中腸上皮細胞内に多数のノゼマが観察できる。 |
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)