飼料作物病害図鑑

トウモロコシ 紋枯病 リスク評価スコア3.0 (3,3,3)

病徴 病徴(菌核) 病原菌(菌糸) 培養菌叢(左上:AG-1,TA,
右上:AG-1,TB, 下:AG2-2, VB)

病徴:激発すれば植物体全体の枯死にもつながる重要な糸状菌病。梅雨入り前から地際部で発病し、病斑が葉鞘を伝って上部へ進展する。病斑は周縁部褐色、中心部灰白色の雲形斑となる。発生後期には病斑上に褐色で表面が滑らかな菌核をつくり、これが地面に落ちて翌年の感染源となる。高温(特に30℃以上)高湿条件で多発し、1日1cm以上病斑が進展する。

病原菌:Rhizoctonia solani Kühn AG-1 TA (有性世代: Thanatephorus cucumeris (Frank) Donk)、担子菌
トウモロコシでは病原菌の多くがR.solani 菌糸融合群AG-1 培養型TA(イネ紋枯病系)であり、これは牧草葉腐病、イネ・ソルガム紋枯病などと共通している。この他にAG-1 TB(樹木苗くもの巣病系)、AG-2-2(イグサ紋枯病系)、AG-4(苗立枯病系)、AG-5(土壌系)などが分離されるが、いずれもAG-1 Taに比べトウモロコシへの病原性は低い(佐藤・月星 1984b, 月星ら 1988, 1993)。マイクロサテライト遺伝型解析によれば、トウモロコシ個体群はイネおよびダイズ個体群とは区別され、イネ・ダイズ個体群に由来しない伝染源である可能性がある(牧田ら 2015)。

生理・生態:病斑表面には褐色〜黒褐色、肉眼では表面滑らか、大きさ1-3mmの球状菌核を形成する。これが後に融合して不整形の菌核となり、地面に落下して感染残渣とともに翌年の感染源となる。病斑上の菌核は時間の経過とともに発芽率が徐々に低下し、これは拮抗性のトリコデルマ菌等によるとされる(長沢ら 1995)。


防除法:圃場での接種法が開発され(濃沼・望月 1989)、トウモロコシ品種・系統の抵抗性評価が進められているが(井上ら 1985, 濃沼ら 1985)、優良な抵抗性品種はまだ無い。病斑が形成された葉鞘を剥離することで、その後の病徴進展を阻止できることから(井澤 1982, 井澤・秋田 1982a)、葉鞘剥離法による防除および支根発生に伴う葉鞘剥離による発病回避形質の利用が提案されている(加藤・井上 1993, 1995)。作付前のプラウによる深耕で、感染源の埋没効果により、発病が遅れることが報告された(君ヶ袋ら 1986)。本病菌に寄生性を持つ非病原性2核リゾクトニア菌を前接種することにより、発病を抑えられる(Pascualら 2000b)。

総論:月星(2011c)三澤(2019)


畜産研究部門(那須研究拠点)所蔵標本

標本番号 宿主和名 宿主学名 症状 採集地 採集年月日 採集者
N4-87 トウモロコシ Zea mays L. 紋枯病(葉腐) 栃木県西那須野 1950.8 小林
N12-31 紋枯病 栃木県矢板市川崎 1979.8.27 西原夏樹
N12-32 栃木県大田原市実取 1979.8.27 西原夏樹
N12-36 栃木県矢板市川崎 1979.8.7 西原夏樹
N21-6 紋枯病(葉腐) 栃木酪試 1972.8.8
N19-71 菌核(紋枯?) 草地試 1980.9.20

(月星隆雄,畜産研究部門,畜産飼料作研究領域,2021)


本図鑑の著作権は農研機構に帰属します。

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