平成23年4月27日
農研機構 農村工学研究所
津波浸水後の水田などに対して、短期及び中長期的に実施が想定される除塩に関して、淡水の供給と排水などの農業工学的な対策技術(案)を取りまとめた。内容は、除塩の基本的考え方、除塩の前提となる条件整備、水源・用水の確保、必要水量の算定、用水路内の送配水管理、水田ほ場の管理作業、水田ほ場における用排水管理及び除塩効果の評価から構成される。
なお、大量の瓦礫や堆積土砂が存在する場合には、除塩対策の前に、堆積物の排除や排水改良などの十分な農地の復興計画を立案し、その対策を実施する必要がある。
今回の東日本大震災では、津波により、福島県、宮城県及び岩手県を中心とした太平洋沿岸の低平地に位置する約2万4千haの優良農地が壊滅的被害を受け、多くの水田が塩水の浸入を受けた。4月下旬以降の水稲などの作付けの本格期に向けて、水田の復旧・復興と作付け前の除塩が必要とされている。これまで、農村工学研究所では、震災後に数回の農地被害の現地調査や所内における必要な対策技術の文献調査とその分析を行ってきた。そこで、これらの成果を活用し、今後、現場で行われる短期から中長期間までを視野においた農業用水による除塩対策を支援するための技術資料(案)を取りまとめた。本資料が、農地の復旧・復興に少しでも活用され、早期に地域の農業農村の再建が行われることを、心より願うものである。
津波により浸水を受けた水田の作土には海水の成分であるNaClが多く含まれている。このうち、Naイオンの何割かは土粒子に吸着しており、Clイオンは土壌水中に存在している。除塩は、両者を作土から排除することが基本である。土壌水中にあるClイオンは、水とともに洗い流すことができる。土粒子に吸着しているNaイオンは、Caを含む資材を投入してから洗い流すと、CaイオンがNaイオンを土壌水中に追い出すため、効果的に除去できる。
淡水を灌漑する急速な除塩の方法には、NaCl(以下「塩分」)を下方に抜くか、または側方に抜くか、大きく二通りある。下方に抜く場合の原理は、淡水を灌漑することによって塩分濃度の高い水を下方に押し出す(移動させる)ことである。水田の排水性が高いほど、下方への水の移動速度が速くなり、除塩の時間が短縮されるので、組み合わせ暗渠などの排水改良が有効である。この方法による除塩の報告例を本資料の参考文献として挙げている。
一方、地下水位が高い、排水性が低く暗渠も整備されていない、という状況の水田では、淡水の灌漑後に代かき・落水を行う除塩方法が提案されている。代かきは下方への浸透を抑えるので、この方法では落水(地表排水)によって塩分を側方に抜くことになる。この場合の除塩のイメージは、プラスチック容器に塩分を含む土と淡水を投入して激しく振って塩分を全体に行き渡らせ(代かき)、上澄みを捨てる(落水)操作であり、その原理は希釈である。従って、代かき前にできるだけ多くの水を貯めるほど、また落水量を多くするほど除塩効果が高くなる。
灌漑効率(%) | 灌漑時間(hr/day) | 粗用水量(m3/sec/ha) |
90% | 24 | 0.013 |
90% | 12 | 0.025 |
90% | 6 | 0.051 |
85% | 24 | 0.014 |
85% | 12 | 0.027 |
85% | 6 | 0.054 |
80% | 24 | 0.015 |
80% | 12 | 0.029 |
80% | 6 | 0.058 |
農研機構 農村工学研究所 企画管理部 防災研究調整役
鈴木 尚登 (TEL 029-838-8193,FAX 029-838-7609)