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復興計画は地域の再生を目指すものであるから、防災・減災をベースとする空間の再構成であったとしても生活、生産、社会、文化といった地域で暮らす上で不可欠な要素を十分に配慮した検討が求められる。
大災害後の復興計画では、再び災害に見舞われたときの被害を最小限に食い止めることに議論が集中し、生命リスク回避を第一義とした計画が立案されるであろう。しかし一方で、復興計画は地域の総合的な再生を目指すものであるから、防災や減災をベースとする空間の再構成(現状復帰も含む)であったとしても、「生活」「生産」「社会」「環境」「文化」と言った、地域で暮らす上で不可欠な要素を十分に配慮した検討が求められる。
基本的に、地域生活に即した復興計画は、防災観点からの再構成された空間を、日常生活や営農活動の利便性や機能性の観点、あるいは、コミュニティ形成や地域アイデンティティ醸成の観点から評価して練り上げていくことで、展望できるだろう。
このような復興計画は、トップダウン型となる広域インフラ計画とボトムアップ的に構築されるべき集落や住民生活現場からの生業(産業と生活)計画からなると考えら、インフラ計画も生業計画も、様々な土地や空間の持つ複合的な機能とそこで暮らす人々のライフスタイルとの調和において評価・修正され、時間と共に馴染み、落ち着いてくるであろう。
しかし、今後、地域での暮らしの有り様を左右する様々な復興計画案が出てきた場合、地域住民は何をもって、自分たちの居住空間の再構成を評価し、絞り込めば良いのだろうか。
このためには、防災の観点からの空間評価と住民生活の各機能による空間評価とを相対させて、どの場所で、どのような生活行動が防災とどのような関係になるのかを明らかにしていく必要がある。その関係が明示されることで、災害に強い地域づくりの視点が把握されて、より実質的な「復興計画」を描くことが可能となる。
アイデンティティ醸成の基礎となる「環境・文化」に対する災害リスクは、「生命」「生活」等に関する災害リスクに比べて、下位に置かれる可能性が高いものの、計画の初期段階から、他リスクと並列的に検討されるべきである。
災害リスク(災害により損失を被る危険性)は暮らしの空間が持つ様々な機能(安全・安心に暮らす機能、快適に暮らす機能、便利に暮らす機能、楽しく暮らす機能、誇りを持つ機能・・・)に対して一様ではない。
災害リスクを回避する機能確保や予防対策の優先序列は、その時代、その地域において特異性を持つと考えられるが、一般的には、「生命」、「生活」、「生産」、「社会」、「環境・文化」の順に並ぶと考えられる。先ずは、「生命」が守れるか否かが予防対策の鍵となる。次に、「生活」に支障があるや否や、その次は、「生産」の条件が整っているかどうかである。これらが基本的な予防対策の要素になると言えるだろう、この満足度の上に、地域のコミュニティが存立し、住民が集まって生活する「社会」が形成されていく。そして、最後の検討要素が、「環境・文化」に対する機能確保になるのではないか。
しかし、これらアイデンティティの醸成や形成にとって重要な役割を果たす環境・景観や文化保全は、最後に残ってから検討するという事では無く、「生命」から「社会」への予防対策の検討を行うそれぞれの段階で考えていくべき機能であろう。なぜならば、「生活」「生産」リスク回避を優先することで、自然生態系や景観の機能に対する配慮を見逃し、効率性を追求してきたのが近代化であるからだ。復興計画では、「生命」「生活」等に対する災害リスクを優先しつつも、下位要素の機能確保を同時に検討していく思想をもつべきだろう。
このような、災害リスクマネジメントは、一般化されてはいないが、復興計画案を評価する場合に、常に念頭におくべき観点であると考える。もちろん、これ以外に、地域によっては、得意な機能に対する予防対策や機能確保を考える必要があるかもしれないが、一般的に、復興計画案が自分たちの暮らしにとって適正かどうかは、このような観点から評価してみてはどうだろうか。
文化・生態系・景観については、様々な専門家の参画により、調査・計画段階から住民の想いを共有しながら、住民自らが文化保全計画、自然生態系修復、景観形成計画を立てて、広域の復興計画に連動させることが重要である。
地域の空間は、長い歴史の中で蓄積された文化空間である。被災した農村も漁村も、それぞれ独自にその地形的・気象的特徴と周辺地域との関係の中で、文化を創り上げている。復興計画においても、単によく似た地形だから、人口規模が同じだからといった画一的な地域分類によって、計画のパターンを提示してはならないだろう。また、住居や施設の移転先の捻出のためにむやみに土地調整を図ることもしてはならないだろう。更に、住民自身が十分に把握していない文化的価値もあり、本被災で、その価値が記録された様々な文献や資料が消失していることもあろう。住民による地域現場からの復興計画においては、地理学、民俗学、歴史学、社会学の専門家の参加も得て検討し、文化保全のためのガイドラインを策定していくべきだろう。
本震災では、津波により二次自然の生態系も大きな影響を受けた。自然生態系は、様々な要素のつながりとバランスによって成立しており、局所的な破壊が広域に影響を及ぼすこととなる。また、自然生態系の修復とその保全は農業生産の持続性や生活の快適性ともリンクしており、自然の価値自体が都市農村交流とも連動し、地域の産業的復興基盤となることから、早急に専門家を動員し、長期的な視点での修復計画を立て、復興計画に盛り込む必要があるだろう。特に、大きな環境変化があった地域の生物モニタリングは、長期的な視点に立った生態系修復にとって重要な事項となるだろう。
景観も、地域アイデンティティの醸成・形成として重要な要素となる。復興計画に伴い、土地利用パターンの変化によってランドスケープが改変されることも予想されるが、消失した小さな生活文化の景観としての地域のデザインコード(地域独自の形態的・素材的特徴)の掘り起こしは重要な課題である。文化や景観は、アイデンティティとして住民の身体に染みついていると考えられ、見慣れ親しんだものの喪失感は、長期化すればするほど深く精神に影響を与え、アイデンティティ回復までには相当の時間がかかるであろう。復興計画において、先ず重要なことは、専門家の参加により、住民とともに、誇りとなるデザインコードの確認作業を行い、認知共有することであり、その先に、地域住民参加による景観形成計画の策定が実現するだろう。美しい景観形成は地域の誇りとなり、都市農村交流にも連動し、観光産業にも影響する。また、復興の象徴ともなるであろう。
※文化や生態系、景観等の復興計画については、基本的に、住民の力が必要であることは間違いないが、これらは、地域の復旧のステージに合わせて進めなければならないだろう。地域行政が牽引していくとしても、その背後で専門家が支援していくとしても、住民の想いの共有こそが先にあるべき姿であろう。刻々と変化していく現場の状況に常に敏感に反応し、取り組みを進めなければ、どの計画もうまくいかない。