住居の高台移転

■住居の高台移転を考える上でのポイント:移転先の海岸からの距離と標高

過去の調査研究から学ぶ山口弥一郎「津波常習地三陸海岸地域の集落移動」(選集6、1972)から

  • 昭和三陸津波(1933年)の後に3,000戸(岩手2,199戸、宮城801戸)が高台移転しました。
     

    移動前

    移動後

    海岸からの距離

    102.9m

    307.2m

    高度

    2.9m

    10.8m

  • それにもかかわらず原地復帰したケースが多く、またもや被災してしまいました。
  • 原地復帰したケースに基づくと、移動限界は海岸からの距離400m高度15m以下となります。
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過去の最大津波の到達ライン < 移動適地 < 住宅から生産基盤(漁港、農地)へのアクセス生活利便性、土砂災害の危険性
「此処より下に家を建てるな(姉吉地区)」
 
「ここより上に家を建てるな(山下文男「津波の恐怖」2005)」

■住居の高台移転を考える上でのポイント:移転の形態

過去の調査研究から学ぶ田中館秀三・山口弥一郎「三陸地方における津浪による集落の移動」地理と経済、1936

明治・昭和の三陸津波による集落の移動形式の3分類

(宮城県気仙沼以北、岩手県田老までの39集落)
  • ・原地居住:防波堤の建設、土盛り等によって将来の被害を軽減しているが、ほとんど水平的に原集落の占拠地域を変えないもの。都市化した集落にみられる。 
  • 図面:田老大槌
  • ・集団移動:谷の斜面、山麓の高地等に被害者の共同移動地域を設定して、土地割りをし、新たな集落を造るもの。
  • 図面:唐丹鵜住居綾里吉里吉里船越
  • ・分散移動:被害が集落の一部に過ぎないもの、あるいは集団移動を計画して実現し得なかったものに多い。
  • 図面:唐桑広田吉浜
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●減災農地活用型

住居の高台移転が可能な地区では、低地部に防潮林や減災農地第二堤防(兼自治体幹線道)を配置して、堤防を越えた津波の勢いを減らし、生活の拠点である住居を津波から守ります。
岩手県A地区に「減災農地活用型」の考え方を当てはめたイメージ
岩手県A地区に「減災農地活用型」の考え方を当てはめたイメージ
  • A地区では約600戸のうち約200戸が被災したと推定されます。(被災率33%)
  • 200戸を高台移転する場合、1戸あたり500uとすると、10haの土地が必要になります。
  • A地区の場合、高台移転可能な地帯(標高20〜50メートル、ピンク色部分)に100ヘクタール以上の土地があり、被災住居の高台移転は可能と思われます。
  • 高台移転は以下の原則で行います。
    • 集落全戸が被災した場合:集落単位で高台に移転する。
    • 集落の一部が被災した場合:隣組単位あるいは個別住宅単位で既存集落近傍に移転します。
減災農地活用型の断面図イメージ

●津波堤防改良型

住居の高台移転が困難な地区では、道路を兼ねた第二堤防を整備して、その後背地に住居を移転し、第一堤防を越えた津波から生活の拠点である住居を守ります。
岩手県B地区に「津波堤防改良型」の考え方を当てはめたイメージ
岩手県B地区に「津波堤防改良型」の考え方を当てはめたイメージ
  • B地区では市街地約700戸のうち約500戸が被災したと推定されます。(被災率71%)
  • 500戸を高台移転する場合、1戸あたり500uとすると、25haの土地が必要になります。
  • B地区の場合、高台移転可能な地帯(標高20〜50メートル、ピンク色部分)が小さく、高台移転地の確保は困難と考えられます。
  • そこで、標高は20メートル以下ですが今回の津波が到達しなかったC地区近傍に市街地を移転させ、さらに巨大津波に備えて、海と移転市街地の中間(谷幅が狭いところ)に第二堤防(兼自治体幹線道)を整備し、移転した市街地を津波から守ります。
  • 旧市街地には、漁業施設、業務施設、減災農地を配置します。