研究所トップ研究成果情報平成7年度

伝統的耕種法「土入れ」によるコムギ赤かび病およびうどんこ病の抑制


[要約]
越冬後のコムギに「土入れ」することにより、紅色雪腐病の被害茎葉や黄化下位葉のうどんこ病斑が被覆され、伝染源が遮断されることから、赤かび病やうどんこ病の発生が抑制される。
東北農業試験場・地域基盤研究部・病害生態研究室
[連絡先] 0196-43-3465
[部会名] 生産環境
[専門]  作物病害
[対象]  麦類
[分類]  研究

[背景・ねらい]
土入れとは越冬後のコムギに土壌をふりかける伝統的耕種法である。凍霜害で傷んだ根の機能回復、畦間の肥料成分を株元に添加、無効分げつの抑制、倒伏防止、雑草の抑制などに効果があり、昭和30年代までは麦踏みとともに麦栽培の基本技術であった。本耕種法を適用し紅色雪腐病の被害茎葉を土壌で被覆することで病原菌(Fusarium nivale)の赤かび病への伝染環を断つことが可能と想定し、再評価を行った。

[成果の内容・特徴]
  1. 試験は1991年から1995年にかけて行い、条播したコムギの節間伸長開始期(R4)および穂孕期(R9)に紅色雪腐病の被害茎葉および黄化した下位葉が土壌で完全に隠れるように処理し、収穫期までF.nivaleの動態(子のう殻形成率、発病葉、発病穂)を追跡するとともに、他の病害の発生消長も調査した。
  2. 年次や試験区により効果に差はあるが、病原菌の子のう殻形成率および止め葉病斑形成率は土入れにより大きく減少する。最終的な赤かび病罹病穂率も著しく減少する(図1)。生育調査では草丈、穂数は変わらないが、収量は1割以上増加する。うどんこ病の発生消長にも差があり発生初期(6月中旬まで)の抑制効果が大きい(図2)
  3. 土入れ処理により株腐病が多くなる事例があったが、地際部を土壌で補強しているので、倒伏等の被害は問題にならない。

[成果の活用面・留意点]
本法は、現代のドリル播きや全面全層播き等の畦間のほとんどない大規模省力化栽培には適用できない。技術の実用化にあたっては、農業機械や経営面からも検討し、総合的技術開発が必要である。

[その他]
研究課題名:Fusarium nivaleによる麦類赤かび病の発生生態の解明と防除技術の開
      発
予算区分 :別枠(安全性向上)
研究期間 :平成7年度(平成3年〜7年)
発表論文等:伝統的耕種法「土入れ」がコムギ病害の発生程度に及ぼす影響(講要)
       日植病報61:240(1995)