[背景・ねらい] |
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寒冷地における水稲の湛水直播栽培では、出芽時の低温により苗立ちが不安定になりやすく、普及の障害になっている。一方、低温苗立ち性には大きな品種間差があることが知られているが、その要因は明確となっていない。本研究では、鞘葉の伸長性が低温苗立ち性の重要な要因であることを明らかにし、鞘葉の伸長速度との関係をもとに、鞘葉伸長期のでんぷん分解活性や、成熟種子胚の成分などの要因と低温苗立ち性の品種間差との関係を検討する。 |
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[成果の内容・特徴] |
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1. |
低温苗立ち性に優れた品種は低温での鞘葉の伸長が速い。しかし、低温苗立ち性と低温での発芽の遅速とは関係ない(図1)。 |
2. |
成熟した種子から単離した胚をブドウ糖、無機栄養素混合物(ムラシゲ・スクーグの栄養素)、ペプチドとアミノ酸の混合物(ペプトン)を含む各種培地で培養すると、ブドウ糖が含まれる培地に限り鞘葉が継続的に伸長する。したがって、糖類がイネ種子の鞘葉伸長期に必須な栄養素である(表1)。 |
3. |
鞘葉伸長期の胚乳内のα−アミラーゼ活性と低温での鞘葉伸長の遅速や苗立ち率との間には相関が認められない(図2)。 |
4. |
成熟種子の胚には乾燥重量の10%程度の高濃度のショ糖が含まれており、胚中のショ糖含量の高い品種は鞘葉の伸長が速く、低温での苗立ち率も高い(図2)。 |
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[成果の活用面・留意点] |
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1. |
出芽・苗立ちの品種間差の要因解明や低温出芽性の高い品種の開発のための基礎的知見として活用できる。 |
2. |
成熟種子胚中のショ糖は、鞘葉長が2mmに達する前の発芽のごく初期に消尽されるため、それ自体が鞘葉伸長のエネルギー源であるとは考えられない。発芽時におこる非常に活発な代謝の中で何らかの役割を持つと推測されるが、現時点ではその機能は不明である。 |
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