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Tylenchidae科の線虫Filenchus misellusは糸状菌を用いて培養できる

[要約]
稲藁堆肥中に生息する線虫Filenchus misellusを、Tylenchidae科の線虫としては初めて糸状菌を餌にして培養した。この線虫は、担子菌や子嚢菌等でよく増殖する。植物病原性のRhizoctonia solaniを餌にすると、菌株の違いにより増殖率が異なる。
[キーワード]
  糸状菌食性線虫、Filenchus misellus、担子菌、子嚢菌、Rhizoctonia solani
[担当]東北農研・畑地利用部・畑病虫害研究室
[連絡先]電話024-593-5151、電子メールhokada@affrc.go.jp
[区分]東北農業・生産環境(虫害)、共通基盤・病害虫
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
植物寄生性線虫の多くが属するTylenchida目の中で原始的とされるTylenchidae科線虫は植物食性であり、糸状菌を餌にした培養は困難であると考えられてきた。しかし、稲藁堆肥中に生息する本科の1種が糸状菌の菌糸を摂食して産卵するのが確認された。糸状菌を餌にして本種を培養できれば、植物病原菌や有害線虫に対する防除資材としての利用の可能性が期待される。そこで、線虫種を同定するとともに、培養に適した糸状菌種を調査する。比較のため、糸状菌食性線虫の普通種であるAphelenchus avenae (Aphelenchida目)についても同時に調査する。
[成果の内容・特徴]
 
1. 稲藁堆肥から分離した糸状菌食性線虫は、小型の中部食道球、腸に重ならない後部食道球、円形でオフセット型の受精嚢、小型の精子、長い尾部等、Tylenchidae科線虫の特徴を有し(図1)、形態特性値の測定結果から、Filenchus misellusと同定された。
2. 糸状菌10菌株(7属9種)各々の菌叢をPDA培地上に生育させて線虫30頭を接種し、25℃で40日間培養した場合の増殖率は、線虫種と糸状菌種の組み合わせで大きく異なる。すなわち、F. misellusではRhizoctonia, Chaetomium, Agaricus, Coprinus, Pleurotusで増殖率が高いのに対し、A. avenaeFusarium, Pythium, Rhizoctonia, Agaricusで増殖率が高い。一方線虫捕食菌として知られるヒラタケ(Pleurotus)に対する反応は両線虫種間で正反対で、F. misellusは菌糸を摂食して増殖し、A. avenaeは菌糸に捕食されて全滅する。
3. 宿主作物を異にするR. solaniの6菌株での増殖率は、F. misellusの場合、菌株間で異なり、宿主作物種と増殖率には関係がない(図3)。一方、A. avenaeはいずれの菌株でも高い増殖率を示す。
[成果の活用面・留意点]
 
1. Filenchus misellus を含むTylenchidae科線虫は従来植物食性とされていたが、本研究によって初めて糸状菌食性が証明された。線虫の分類・同定において食性は重要な特性であるため、その見直しが必要である。またF. misellus の植物食性についても検討する必要がある。
2. 同じ線虫種と菌種の組み合わせでも、線虫の増殖率が土壌中と人工培地上で異なる可能性がある。
3. Filenchus misellusは、ヒラタケ菌糸が分泌する毒素に対する耐性を有し、粘着突起による捕捉を避けて増殖する線虫としては初めての例である。
[具体的データ]
 
[その他]
研究課題名: 生態系調和型畑作圃場における線虫群集の特性解明
予算区分: 交付金
研究期間: 2000〜2003年度
研究担当者: 岡田浩明、門田育生
発表論文等: 1)Okada and Kadota (2002) Nematology 4(2):306.
2)Okada et al. (2002) Nematology 4(7):795-801.