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製パン適性が高く、早生で耐寒雪性が強い小麦新品種「ゆきちから」

[要約]
小麦「ゆきちから」は、早生で耐寒雪性と耐倒伏性が強く、赤さび病、うどんこ病及び縞萎縮病に対して抵抗性をもつ。中種生地法による製パン適性が優れる。岩手県及び福島県で奨励品種に採用予定。
[キーワード]
  小麦、ゆきちから、早生、耐寒雪性、耐病性、製パン適性
[担当]東北農研・作物機能開発部・麦育種研究室
[連絡先]電話019-643-3512、電子メールyosikawa@affrc.go.jp
[区分]東北農業・畑作物
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
東北地域では、水稲の減反に伴い麦・大豆等への大幅な転換が必要となっている。小麦では、特に、大豆との作付体系上有利な、早生・多収品種の育成が求められている。また、最近全国的に国内産小麦でパンを製造することが盛んになりつつあり、製パン適性の高い良質品種に対する要望も強い。そこで、寒冷地向けの早生・多収で、耐寒雪性・耐病性が強く、製パン適性が高い小麦品種の育成を図った。
[成果の内容・特徴]
  小麦「ゆきちから」は、強稈・多収、耐寒雪性、耐病性及び高品質を育種目標に、1975年度(1976年5月)東北農業試験場(現 東北農業研究センター)において、やや晩生であるが、耐倒伏性があり製パン適性が優れた「東北141号」を母とし、耐寒雪性が強く、カモジグサ由来の赤さび病抵抗性を持つ「さび系23号」を父として人工交配を行い、以降系統育種法で選抜・固定を図ってきたものである。2001年度の世代は雑種第26代(F26)である。
パン用品種の「コユキコムギ」に比較して、次のような特徴を持つ(表1)。
1. 播性は同程度のVで、出穂期で4〜5日、成熟期で2〜3日早い、早生種である。
2. 稈長及び穂長はやや長く、穂数は多い。
3. 耐寒雪性及び耐倒伏性は強く、穂発芽性は同程度の中である。
4. 赤さび病、うどんこ病及び縞萎縮病のいずれにも強い。赤かび病は同程度の中である。
5. 収量及び千粒重は同程度であるが、リットル重がやや小さい。外観品質は優れ、粒質は同じ硝子質、硬軟質性は同じ硬質である。
6. 製粉歩留、ミリングスコアともやや低いが、「キタカミコムギ」に比べるとやや高い。粉の白さ、明るさとも同程度である。
7. 粉の蛋白質含量は同程度かやや高い。吸水率は同程度に高く、生地の伸長抵抗、伸長度ともにやや大きい。
8. アミログラムの最高粘度はやや高い。
9. 製パン適性は吸水性と作業性が優れ、パン官能評価合計点が高いため、パン総合評価点が高い。製パン法は中種生地法の方がストレート法より製パン適性が高く、適している。
[成果の活用面・留意点]
 
1. 東北地域の根雪期間が110日以下の平坦地に適応する。
2. パンや中華めんなどへの利用ができるため、地産地消の品種として、国内産小麦の需要拡大が期待できる。
3. 穂発芽性が中程度であり、収穫期の雨濡れにより穂発芽して低アミロになることもあるので、成熟期に達したら雨に当てないよう速やかに収穫する。
4. パン用粉としては小麦粉蛋白質含量が10%以上必要なので、十分な基肥と融雪期追肥、減数分裂期追肥、出穂期追肥を組み合わせた適切な施肥管理を行う必要がある。
[具体的データ]
 
[その他]
研究課題名: 小麦の早生品種の育成、寒冷地向け高製めん性・高製パン性小麦優良品種の育成、寒冷地向け中華めん用等の良色相小麦の早期選抜、小麦遺伝資源の特性調査−一次特性
予算区分: 交付金、麦緊急開発、21世紀1系、遺伝資源
研究期間: 1975〜2001年度
研究担当者: 吉川 亮、中村 和弘、伊藤 美環子、伊藤 裕之、中村 洋、星野 次汪、 田野崎 眞吾、谷口 義則、佐藤 暁子、伊藤 誠治、八田 浩一、後藤 虎男、藤原 秀雄、上田 邦彦、北原 操一、中島 秀治