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花芽形成関連遺伝子を利用した早期開花性リンゴの作出

[要約]
シロイヌナズナの花芽形成抑制遺伝子と相同な遺伝子MdTFLをリンゴから単離した。MdTFLの過剰発現はシロイヌナズナの開花を遅延させた。MdTFLのアンチセンス遺伝子を導入した組換えリンゴは8〜11ヶ月で開花し、受粉することにより正常に結実した。
[キーワード]
  リンゴ、花芽形成、幼若性、早期開花、MdTFL、TFL1
[担当]果樹研・リンゴ研究部・育種研究室
[連絡先]電話019-645-6154、電子メールkoto@affrc.go.jp
[区分]果樹・育種、東北農業・果樹
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
永年性木本植物である果樹は幼若期間が長く、遅いものでは播種後10年以上は結実しない。果樹の育種事業を行う際、この長期の幼若期間中は果実調査を行うことはできず、効率的な新品種開発の大きな障害となっている。そのため、花芽形成に関与する遺伝子に着目し遺伝子レベルでの幼若性解明と幼若期間短縮技術を開発する。
[成果の内容・特徴]
 
1. 花芽形成を抑制する機能をもつシロイヌナズナの遺伝子TERMINAL FLOWER1(ターミナル フラワー1:TFL1)と相同な機能を持つ遺伝子をリンゴから単離し、MdTFL(エムディーティーエフエル:Malus domestica TFL1)と命名した(図1)。
2. リンゴ茎頂部におけるMdTFLの発現は、花芽分化期直前にピークに達し、その後減少する(データ略)。
3. MdTFLを過剰に発現するシロイヌナズナの組換え体は、播種後平均30日で開花した対照(野生型)と比較し9〜23日開花が遅延し、MdTFLは開花抑制(幼若性維持)機能を有することが示唆された(図2)。
4. MdTFLの発現を抑制することで花芽分化を促進させるという考えに従い形質転換用ベクター(MdTFLアンチセンス遺伝子を組込んだベクター)を構築し、その遺伝子をリンゴ「王林」の葉片培養細胞に導入して組換え体を作出した。培養器内の組換え体「王林」から茎頂部を切り出し、鉢植えの台木に接木し隔離温室内で生育させたところ、最短8ヶ月で開花する系統が得られた(図3)。
5. 早期開花した系統の花器官は形態的に正常であり(図4)、受粉することにより正常な果実を形成した。
[成果の活用面・留意点]
 
1. リンゴの早期開花・結実による品種育成の加速化や世代促進技術の開発、リンゴ栽培における幼若期間の短縮などにつながる研究に利用可能である。
2. 他の果樹作物や木本植物における花芽形成機構・幼若期間の短縮などに関する研究に応用可能である。
3. 開花・結実の安定性、早期開花性の後代への遺伝、組換え体の安全性については詳細な解析・評価を行う必要がある。
[具体的データ]
 
[その他]
研究課題名: 花芽形成遺伝子導入による早期結実性リンゴの開発
予算区分: 組換え植物
研究期間: 2002〜2005年度
研究担当者: 古藤田信博、副島淳一、和田雅人、増田哲男
発表論文等: 1)特許出願「花芽形成抑制遺伝子及び早期開花性が付与された植物(特願2002-180289)」